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半分以下のコストでデジタル化を実現!
1万4,000世帯を網羅する利便性の高い防災情報伝達システム

課題

1万4,000世帯を網羅するアナログ防災行政無線の老朽化が進行

従来方式でデジタル化を行うには膨大なコストが必要

合併前の旧4町でそれぞれ異なるシステムを統合運用したことによる利便性の悪化

効果

  • スマートフォンアプリ、メールなどとの連携により、いつ・どこにいても個人所有の端末から情報が受信できる仕組みに

    従来の“家庭”単位から“個人”単位へと変わることで、外出時や市外の親戚からも防災情報を確認することができます。
  • 従来システムで必要だった電波設計や中継局等の設備が不要となり大幅なコスト削減を実現!
    携帯電話通信網を利用することで、防災情報伝達システムを低コストで構築。コンパクトな送信システムから、地域内に配備した屋外スピーカーやタブレット端末、携帯端末などへ携帯通信網を通じて防災情報などの配信が可能に。
  • システム統一による利便性向上に加え、各自治会単位での放送なども容易に!
    システムの設置場所を訪れることなく、タブレット経由で手軽に地域放送が行えるようになった。

導入の背景と課題

アナログ防災行政無線の老朽化が進行統合運用による利便性の悪化も課題に

北部に日本百名山のひとつである伊吹山、西部に日本で最大の面積と貯水量を誇る琵琶湖を有する滋賀県米原市。森林が総面積の63%を占めるなど、水と緑に包まれた自然豊かな地域として知られている。また、中山道と北陸道の分岐点であるという土地柄、古くから交通の要所としての役割を担っているのも特徴のひとつ。鉄道関連では、県内で唯一の新幹線停車駅である米原駅から、関西・中京いずれのエリアにもアクセスしやすい立地となっている。

同市では、住民へ災害情報を伝える防災行政無線システムで、ある課題を抱えていた。それは、従来の1万4,000世帯を網羅するアナログ防災行政無線の老朽化が進行していた点だ。各市町村の防災行政無線を含む簡易無線局は、すでに国の方針として2022年12月までにデジタル化を行うことが決定しており、早急な切り替えが求められている。しかし、従来方式でデジタル化を行うには相当なコストがかかってしまう。

この点について、米原市 市民部 防災危機管理課の野田 峰史氏は「従来のアナログ防災行政無線は、市役所内に設置するセンター設備に加えて、住民の方々に呼びかけるための屋外スピーカー、各戸に配布する戸別受信機、そして電波が届きづらい遠隔地をつなぐための中継用基地局などで構成されていました。これらをそのままの方式でデジタル化すると、戸別受信機を除くイニシャルコストだけで約12億3,500万円に達し、戸別受信機を配布するとさらに約12億円もの追加コストが発生してしまうのがネックでした」と語る。

また、従来のアナログ防災行政無線は利便性の面でも問題があった。こちらは同市の成り立ちに大きく関係しており、2005年2月に山東町・伊吹町・米原町が合併して米原市が誕生、10月に米原市と近江町が合併して現在の米原市を形成しているが、実は合併前の旧4町でそれぞれ異なるアナログ防災行政無線のシステムを採用していたのだ。そして合併後、同市ではメーカーだけでなく周波数帯すら異なる4つのシステムの統合運用をスタート。しかし、統合できる範囲には限界があるため、非常に使いづらいシステムとなっていた。

米原市 市民部 防災危機管理課 課長補佐の石河 輝男氏は「米原市は自然豊かな土地柄である反面、県内でも土砂災害の危険個所が多かったり、1927年2月に11.82mという世界最深積雪を記録した伊吹山付近では雪害に対する警戒が必要だったりと、防災情報伝達システムの担う役割は大きいといえます。こうしたコストと利便性の問題をクリアしつつ、住民のみなさんに最適な防災情報伝達システムを築くにはどうしたらよいか、非常に悩みました」と語る。

選定のポイント

低コストかつ柔軟性の高い携帯電話通信網を利用したシステムに注目!

こうして防災危機管理課では、老朽化が進むアナログ防災行政無線の見直しを図るべく、2014年に新たなシステムの導入に向けた検討をスタートした。そこで出会ったのが、NTTデータが各地域のグループ会社と連携し、多くの自治体で導入を目指している減災コミュニケーションシステムだった。

野田氏は「ちょうど新システムの検討を行っている時期に、NTTデータ関西から減災コミュニケーションシステムの説明を受ける機会があったのですが、コストと機能の両面でまさに求めていたシステムのイメージと合致していました」と語る。

この減災コミュニケーションシステムは、他の市町村で導入整備が進みつつあるデジタル防災行政無線とは異なり、回線にNTTドコモの携帯電話通信網を利用するもの。屋外スピーカーによる放送以外に、スマートフォンアプリや携帯電話へのメールなどで防災情報を送ることができる。携網は住民カバー率が高いため、遠隔地をつなぐ中継用基地局の設置も不要。これによりイニシャルコストが大幅に抑えられるほか、アプリケーション開発によって柔軟なシステム構築も行えるようになる。

さらに石河氏は「防災情報の伝達という役割はもちろんですが、実は従来のアナログ防災行政無線が自治会単位での地域放送に利用されていたというのも、決め手として大きいですね。地域放送の内容は、集会の案内からゴミ出し方法、お悔みなどまで多岐にわたりますが、減災コミュニケーションシステムの導入によって、放送の配信者とそれを聞く住民のみなさんの双方に使いやすい環境が構築できます。スマートフォンや携帯電話が身近になったという背景もありますね」と語る。

検討を進めた結果、防災危機管理課では2015年6月に「米原市防災情報伝達システム基本計画」を策定し、NTTデータの減災コミュニケーションシステムを用いた迅速かつ確実な防災情報伝達基盤の整備に取り掛かったのである。

導入の流れ

住民の意見で新たな機能も追加採用!地域密着型サポートでシステムを最適化

米原市防災情報伝達システム基本計画の策定後、防災危機管理課では住民に対する説明会を開催し、周知活動とともに意見の収集などを実施。
当初は、従来と比べて2~3倍の距離まで明瞭な音を届ける高性能屋外スピーカーの設置、情報を受けるスマートフォンアプリの開発と提供、そして自治体での放送用および希望者向けにタブレットの準備を予定していたが、住民の意見を採り入れ、電話で聞き直しができるシステムを新たに追加したという。

野田氏は「導入前から現在まで、防災情報伝達システムに関する説明会を開催してきましたが、NTTデータ関西の担当者が同行してくれたのは心強かったですね。みなさんの意見を採り入れながら、まさに地域密着型のサポートで、米原市に最適な防災情報伝達システムを作り上げてくれました。NTTグループならではのインフラを活かしつつ、柔軟に対応していただけたことに感謝です」と語る。

減災コミュニケーションシステムの導入は、詳細設計からシステム設計、スマートフォン向けアプリの開発に至るまでスムーズに進行。2018年3月まで従来のアナログ防災行政無線を並行稼働させ、それ以降は減災コミュニケーションシステムのみでの運用を予定しているという。

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導入効果と今後の展望

アイデア次第で無限に広がる可能性新たな防災情報伝達システムが誕生

減災コミュニケーションシステムを用いた防災情報伝達システムは、米原市に数多くのメリットをもたらした。

まずコスト面では、従来方式のデジタル化で戸別受信機を含めて24億円以上と試算されていた事業費が、半分以下の10億6,000万円にまで抑制。
システムの統一により、防災情報配信の利便性も大幅に向上した。
また、防災危機管理課から行う情報配信だけでなく、自治会長へ配布したタブレットから市のシステムに対して、文字や音声を用いた双方向の連絡が行えるようになったのも大きな効果だ。これにより、有事の際には避難状況などを迅速に知ることができる。

野田氏は「これまで使用していた各戸の戸別受信機がなくなることに不安を抱かれている方も多かったのですが、説明会などでその利便性をご理解いただきました。実際、受信対象が従来の“家庭”単位から“個人”単位へと変わることで、数多くのメリットが生まれます。たとえば、外出時でもアプリやメールで情報を確認できますし、市外にいる親戚が防災情報を見てすぐに連絡を取ることも可能です。
また、高齢者や聴覚に障がいをお持ちの方にとって、文字での情報配信は音声以上に重要な部分があります。そのほか、システムの設置場所を訪れることなく、タブレット経由で手軽に地域放送が行えるようになったのもポイントですね」と語る。

こうして米原市では、地域住民の生活にも役立つ新たな防災情報伝達システムを実現した。

「高齢者の見守りや、文字から音声への自動変換など、アイデア次第でさまざまな方向への発展が期待できるシステムです。実際に自治会から、被害状況の写真を送れるようにしてほしいという要望も出てきました。こうした可能性をさらに広げるべく今後も改善に取り組んでいきます」と、今後の抱負について語る野田氏。そこには、NTTデータグループのサポートに寄せる大きな期待も感じられた。