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都道府県も市町村も「命を守る活動に専念」を―NTTデータ関西が総合防災情報システム「EYE-BOUSAI」で出した答え

 | インタビュー

NTTデータ関西の防災システム事業は、阪神淡路大震災が発生した1995年、兵庫県における全国初の総合防災情報システムの構築をきっかけにスタートし、翌年から提供を開始しました。未曾有の災害に対して情報が錯綜し、状況把握に時間がかかり、意思決定の遅れや情報発信もままならなかったことを憂いて、IT技術の力でそれを解決に導いたのです。しかし、現場の声を聴くうちに、従来のシステムでは自治体の皆さまが「命を守る活動に専念できない」ことを実感し始めます。

今回は、NTTデータ関西 第二公共事業部部長の松島にインタビューしました。
最新の総合防災情報システム「EYE-BOUSAI」の開発・提供を通して全国の防災を支える同事業部の歩みに注目し、NTTデータ関西ならではの強みについて紐解いていきます。

プロフィール

松島 庸介(まつしま ようすけ)

株式会社NTTデータ関西 第二公共事業部 第二ソリューション担当部長として、自治体向け総合防災情報システム「EYE-BOUSAI」の営業・開発を取りまとめるビジネス責任者を務める

全国初の総合防災情報システムを生み出しながら、一度は撤退も考えた

NTTデータ関西の防災システム事業は1995年、阪神淡路大震災の年にスタートしたそうですね。

はい。開発には私も担当者として参画しました。なにせ災害は待ってくれませんから、1995年の夏にスタート、翌年3月末にサービス開始という異例の短期間開発で、しかも、非常に多くの機能を実装したことを覚えていますね。NTTとも連携し、おそらくプロジェクトメンバーは総勢100名以上いたのではないでしょうか。

兵庫県に続いて、防災に注力されている自治体へのシステム導入が続きました。しかし、拡大路線は長くは続かず、10年、15年と経つうちに、お客さまが離れていってしまったのです。

お客さまが離れてしまったのには、どんな理由があったと考えていますか?

当時は、防災システムをよくするためにより豊富な機能を装備し、競合他社との差別化も意識して取り組むようになりました。また、利用いただいているお客様の継続性を強く意識してしまうことで、守りの姿勢に入っていたのです。その中で、新しいことをやってみたいとお考えになって離れる自治体の皆さまもいらしたというところでしょうか。

NTTデータ関西としても、一度は防災システムの事業から撤退するかという状況にまで至ったのですが……2011年に東日本大震災が発生し、全国の自治体で危機管理に対する取り組み強化が叫ばれるようになり、「ここで諦めてしまってはいけない」と、あらためて防災システムに向き合う決意をしたのです。

皆で取り組む意識で「災害対応業務に専念できるシステム」を

そして、生まれたのが新たな総合防災情報システム「EYE-BOUSAI」なのですね。まず、取り組んだのはどのようなことですか?

「何が現場で求められているか」を知るために、東日本大震災で被災した自治体の皆さまに直接お話をお伺いし、検討を行いました。そこで前身のシステムが抱えていた「行政の縦割りの仕組みや確実な情報入力を重視するあまり『事後報告』的な運用に留まってしまう」という課題を解決することが重要だと痛感したのです。

そもそも、都道府県における防災と市町村における防災は、それぞれの役割が違っています。市町村では、1人ひとりの住民がどういった状況にあるか、どの場所でどういった被害が起きているかといった詳細な情報を収集して1件ずつ対応していきます。都道府県では、例えば県下の市町村の情報を集約し全体の状況を踏まえながら、どこの被害が最も深刻かといった判断をし、救援物資を割り振ったり、災害派遣を要請したりといった意思決定をしていきます。

なるほど。ただ、役割が違うとはいっても「都道府県と市町村の連携」は欠かせませんね。

はい。そして、まさにそこが旧来の課題でもありました。例えば、市町村から都道府県へ被害件数などの情報を共有する際は、この情報が報道情報になる可能性も踏まえて「より確実なデータで」と慎重になってしまい、結果として共有が遅れがちなのです。また、非常時ですから、目の前の災害対応を優先せざるを得ず、都道府県への情報共有にまで手が回らないといった事情もあります。

一方、都道府県としては数字が確定してからのいわゆる「事後報告」では活用法が限られます。できる限りリアルタイムで被害件数などの情報を把握して、迅速に災害対応へいかしていきたい。とはいえ、情報共有のために市町村の「目の前の災害対応」を止めさせるわけにもいきません。

そこで、新総合防災情報システム「EYE-BOUSAI」は、都道府県も市町村も、住民の「命を守る活動に専念できるシステム」を目指そうと決め、「リアルタイムでシンプルに情報共有(状況認識の統一)が可能なシステム」、「多様な伝達手段で迅速・確実に防災情報を提供」、「業務の変更に柔軟に対応できるシステム」、「災害に強いクラウドサービス」というコンセプトを打ち立てました。

スローガンだけでなく、それを実現するための具体的な仕組みづくりにも最初から乗り出していたのですね。

そうです。それまでNTTデータ関西はSierとして「自治体様のご要望を確実に形にする」ことに取り組んできましたが、EYE-BOUSAIの開発にあたっては「NTTデータ関西が自治体の皆様と一緒に災害対応に取り組む」意識を持って、システムのあるべき姿を見直しました。ご要望を承るだけでなく「自治体様の運用にマッチした仕組みをこちらからご提案する」ところまで踏み込んでこそ、本当に使っていただけるシステムになるのと考えたのです。

「災害対応に正解なし」だからこそ、自治体と共にEYE-BOUSAIを育てていく

「住民の命を守る活動に専念できるシステム」ということは、災害時に市町村は目の前の災害対応に専念でき、都道府県は必要な情報をいち早く集約できるシステムだということでしょうか。

はい。従来、市町村ではホワイトボードなどを用いて未確定情報などを整理した上で、都道府県と連携するためのシステムにあらためて情報を入力するという二重作業を行っていたのです。そこで、まず情報を登録する際にシステム内で、都道府県と共有される「確定情報」、市町村のところで留め置く「未確定情報」という段階付けができるようにしました。

こうすることで、市町村は最前線の災害対応に専念しているだけでも自動的に必要な情報を都道府県と共有することができるようになり、都道府県は自動的に集約された情報をリアルタイムに活用できるようになったのです。

なるほど。自治体の皆さまにも「これは自分たちのためのシステムだ」と感じていただけたのではないでしょうか。

はい。おかげさまでお客様からの共感をいただき、7年間で16都道府県、14市町村へ総合防災情報システムEYE-BOUSAIを提供することができました。特に、都道府県はシェア34%ですから、全国1/3以上の地域でご活用いただいていることになります。

お客様が全国各地にいらっしゃるということで、NTTデータグループの各地域会社ならびにNTTグループと協業体制を構築し「お客さまの地元での対応」もスムーズに進められるようになりました。開発当初は自治体が防災分野にクラウドシステムを適用するという先例がほとんどなく、開発者を集めるのにも苦労しましたが、おかげさまで現在はクラウド開発者も充実し、全国のお客様へEYE-BOUSAIを提供する体制が確立できています。

自治体の皆さまからの反響はいかがですか?

お客様の災害対応業務にしっかりと寄り添った機能や法令改正対応のバージョンアップ、多くの運用実績に基づく改善で「かゆいところに手が届いている」点や、システム運用事例の情報共有が充実している点、都道府県と市町村の連携による迅速でスムーズな情報共有ができる点などはご好評をいただいています。

災害対応には正解がないといいますか、あらゆる発生状況に応じて、その時にどう対応すれば最適なのかといったところは、自治体の皆さまも悩みながら対応されています。それもあって、システムを運用する中で出てくる改善策が多いのです。そうやって実装された機能を、自治体の皆様にご紹介すると「なるほど」と共感していただけることもよくあります。自治体の皆さまとのパートナーシップでソリューションを育てているといいますか、「NTTデータ関西が自治体の皆様と一緒に災害対応に取り組む」意識で進めています。

一人ひとりの環境に応じた支援で「誰ひとり取り残されない防災」を

NTTデータ関西のIT技術で、これからの日本の防災をどう改革していきたいと考えていますか?

EYE-BOUSAIをリリースしてから7年、自治体の皆さまからもさまざまなご意見をいただき改善を重ねる中で、災害対応には一定の効果があったと自負しています。しかし、将来のことを考えますと、まだまだ防災システムとしてやるべきことは多いとも感じています。例えば、気候変動の影響により、地球レベルで災害リスクに直面しています。もちろん日本でも災害の頻発化・広域化・激甚化が進んでおり、公助に加えて自助・共助の重要性が高まってきている。その一方で、人口減少・超高齢化が進行し、防災の担い手が減ることで脆弱性も高まりつつあります。

これからの防災では、人的リソースが限られている中でも確実かつ速やかに情報が共有され、意思決定ができ、さらに一人ひとりの環境に応じた支援を行える仕組みが求められていると感じます。いわゆる「誰ひとり取り残されない社会」の実現です。そのためには、業界の垣根を越えた連携、最新のデジタル技術を活用した情報連携・分析・伝達機能を取込み、支援の仕組みづくりを目指していくべきだと考えています。

「一人ひとりの環境に応じた支援の仕組みづくり」の実現へ向けて、考えていることはありますか?

現在展開中のEYE-BOUSAIを核に、AIや衛星・ドローン等を活用したNTTデータの防災プラットフォーム「D-Resilio」との共創や、スマートシティにおけるサービス連携を実現し、自治体や企業、生活者に対して防災サービスを展開していきたいと考えています。

例えばスマートフォンのアプリ。現在運用されているアプリでも、気象警報・注意報、緊急地震速報、自治体が出す避難情報を知らせてくれますが、足が不自由なユーザーであれば、これに加えて「移動に困難が伴う人はいつ避難を開始すべきか」、「バリアフリーの避難所はどこにあるか」といった、個人の特性に応じた防災情報をタイムリーに知りたいですよね。

そこで、ユーザーが家族構成、住んでいる地域、病気や障がいなど配慮が必要な情報を事前にアプリへ登録することによって、その情報を判別しながら、その方に合った避難の誘導をしてくれる機能を実現できないかと考えているところです。

さらに将来、「避難すべきタイミングで自動運転車が迎えに来て、移動をサポートしてくれる」といった運用ができれば、まさに誰ひとり取り残されない防災につながりますね。新たな仕組みの実現が待ち遠しいです。