一般会計と特別会計の違いとは?自治体の会計制度を徹底解説

一般会計と特別会計は、地方自治体の財政運営における基本的な会計区分です。一般会計は自治体の基本的な行政サービス全般の経理を担う会計で、特別会計は特定の事業を独立採算で管理するために設置されます。両者の適切な運用により、財政の透明性確保と効率的な事業管理が実現できます。
自治体の財政運営において、会計区分の理解は業務の根幹を成す要素です。しかし、実務では会計間の繰入処理や予算編成時の留意点など、複雑な判断を求められる場面が多くあります。
本記事では、一般会計と特別会計の基本概念から実務上の取り扱い、システム管理の方法までを包括的に解説します。財務会計業務の効率化とコンプライアンス強化に向けた実践的なアプローチをお伝えします。
目次
一般会計と特別会計の基本的な違い
一般会計は、住民税や地方交付税などの一般財源を主な収入源とし、福祉・教育・道路整備など住民生活に直結する基本的な行政サービスの歳入歳出を管理する会計です。自治体の総予算の中で最も大きな規模を占め、財政運営の中心的役割を担います。
特別会計は、地方自治法第209条第2項に基づき、特定の事業を行う場合や特定の歳入をもって特定の歳出に充てる必要がある場合に、条例により設置されます。国民健康保険や介護保険、下水道事業など、受益者負担の原則が適用される事業や特定財源で運営される事業が対象となり、事業ごとの収支を明確に区分して独立採算での管理を可能にします。
この会計区分により、各事業の財政状況を的確に把握し、適正な料金設定や経営改善の判断材料とすることができます。
法的根拠と設置要件
地方自治法は特別会計の設置について、必要性と合理性を求めています。単に事業を区分したいという理由だけでは、特別会計の設置は認められません。明確な政策目的と財政管理上の必要性が設置の前提条件です。
設置にあたっては条例制定が必須です。条例には、会計の名称、設置目的、対象事業の範囲、経理する歳入歳出の内容を明記する必要があります。その内容をもって議会の議決を経ることで、特別会計設置の正当性が担保されます。
独立採算の原則と繰入の考え方
特別会計の運営では、独立採算の原則が重視されます。事業収入で経費を賄うことが基本ですが、公共性の高い事業では一般会計からの繰入も認められています。ただし、繰入の理由と金額については、明確な根拠を示す必要があります。
繰入には、法令等に基づく繰入と政策的な繰入があります。法定繰入は総務省が示す基準に従って算定され、その妥当性が担保されます。政策的繰入は自治体の判断で行われますが、財政負担の観点から慎重な検討が必要です。
特別会計の種類と設置目的
自治体の特別会計は、法律で設置が義務付けられているものと、任意で設置するものに大別されます。義務設置の代表例は国民健康保険や介護保険で、任意設置には下水道事業や駐車場事業などがあります。
法定設置の特別会計
国民健康保険特別会計は、国民健康保険法に基づき設置が義務づけられています。被保険者からの保険料と国・都道府県からの負担金を財源とし、医療給付や保健事業を実施します。高齢化の進展により、多くの自治体で財政的な課題を抱えています。
介護保険特別会計も法定設置です。介護保険法により、40歳以上の住民から徴収する保険料と公費を財源として、介護サービスの給付を行います。サービス利用の増加に伴い、持続可能な制度運営が重要な課題となっています。
後期高齢者医療特別会計は、75歳以上の高齢者を対象とした医療制度の運営に関する会計です。都道府県単位の広域連合が保険者となりますが、市町村は保険料の徴収や窓口業務を担当し、その経理を特別会計で行います。
公営企業会計の特性
公営企業会計は、水道事業や下水道事業、病院事業など、企業的な経営が求められる事業に適用されます。地方公営企業法の適用を受け、発生主義会計による財務諸表の作成が義務づけられています。経営の効率化と財政状況の明確化を目的とします。
公営企業会計では、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などの企業会計に準じた財務書類を作成します。減価償却や引当金の計上により、適正な原価計算とコスト管理が可能になります。
さらに、発生主義による財務諸表の作成により、減価償却費や引当金を含めた適正な原価計算が可能となり、料金設定の適正化につながります。
任意設置の特別会計
住宅事業特別会計は、市営住宅の建設・管理を独立採算で行う場合に設置されます。家賃収入を財源として、維持管理費や建設費の償還を行います。公営住宅の需要や入居率により、財政状況は大きく変動します。
駐車場事業特別会計は、公営駐車場の運営を一般会計と区分して管理します。利用料金収入で施設の維持管理や建設費の償還を賄う独立採算型の事業です。民間駐車場との競合により、経営環境は厳しさを増しています。
土地取得特別会計は、公共用地の先行取得を計画的に行うために設置されます。取得した土地を事業実施時に各会計へ売却することで、資金を回収する仕組みです。金利負担や土地価格の変動がリスク要因となります。
一般会計と特別会計の財政運営
一般会計と特別会計は独立した会計区分ですが、繰入金と繰出金を通じて密接に関連しています。両会計の適切な関係構築が自治体全体の健全な財政運営につながります。
繰入金と繰出金の取り扱い
一般会計と特別会計の関係で最も重要なのが、繰入金と繰出金の取り扱いです。一般会計から特別会計への繰出しは、特定事業の公共性を考慮した財政支援として位置づけられます。
繰出基準は総務省が示すガイドラインに従って運用されます。国民健康保険においては、保険基盤安定繰出金や職員給与費等繰出金など、明確な基準に基づく繰出が認められています。一方で基準外繰出は財政健全化の観点から抑制が求められています。
特別会計から一般会計への繰入は、剰余金が発生した場合などに行われます。ただし、将来の事業運営に必要な資金を確保したうえで、慎重に判断する必要があります。安易な繰入は、特別会計の財政基盤を弱める要因となります。
予算編成における調整
予算編成では、各会計間の整合性確保が重要です。一般会計の予算規模は特別会計への繰出額に影響され、特別会計の予算は一般会計からの繰入を前提として組まれます。よって全体最適の視点での調整が不可欠です。
各特別会計の事業計画と一般会計の財政状況を総合的に勘案し、中期財政計画に基づいて事業の優先順位を明確化します。財政部門と事業部門の綿密な協議により、事業の必要性と財政負担能力のバランスを見極め、限られた財源の効果的な配分を実現します。
特に複数の特別会計を抱える自治体では、会計間の調整作業が複雑化し、全体像の把握が困難になりがちです。体系的な予算編成プロセスの確立と、データに基づく客観的な判断基準の設定が、円滑な合意形成につながります。
決算における会計間調整
決算時には、普通会計決算統計により一般会計と特定の特別会計を合算して財政指標を算出します。これにより自治体全体の財政状況を総合的に評価できます。実質収支や経常収支比率などの主要な財政指標は、会計間の繰入繰出を含めた形で算定されます。
財政健全化法に基づく健全化判断比率の算定では、公営事業会計の資金不足額が連結実質赤字比率に反映されます。特別会計の収支悪化は、自治体全体の財政健全性に直接影響し、早期健全化団体や財政再生団体への移行要因となる可能性があります。
このため、決算分析では個別会計の収支だけでなく、会計間の財政的な相互依存関係を正確に把握し、総合的な財政運営の観点から評価することが不可欠です。
監査と説明責任
監査委員による決算審査では、会計間取引の適正性が重点的に確認されます。繰出金の根拠、金額の妥当性、予算執行の適正性など、多角的な視点での検証が行われます。透明性の高い説明資料を準備することが重要です。
議会への説明では、各特別会計の収支状況とともに一般会計との関係性を明確に示す必要があります。繰出金の推移や今後の見通しを含め、わかりやすく説明する責任があります。
住民への情報公開も重要な責務です。特別会計の財政状況を平易な言葉で説明し、税金や料金がどのように使われているかを明示して信頼関係の構築につなげます。
財務会計システムにおける会計管理
効率的な会計業務の実現には、適切な財務会計システムの活用が不可欠です。システム化により、データの正確性向上と業務負担の軽減を同時に実現できます。
システムによる統合管理
効率的な会計業務の実現には、一般会計と特別会計を統合管理できる財務会計システムの活用が不可欠です。システムによる自動処理と一元管理により、業務負担を軽減し、データの正確性を高められます。
現代の財務会計システムでは、会計区分ごとの予算管理から執行管理、決算処理までを一貫して行えます。予算科目の設定時に会計区分を紐づけることで、データ入力時の振り分けが自動化され、人的ミスの削減に大きく貢献します。
会計間の繰入繰出処理も、システムにより効率化できます。一般会計での繰出金計上と特別会計での繰入金計上を連動させることで、整合性のとれた処理が可能になります。決算時の照合作業も大幅に簡素化されます。
リアルタイムでの予算執行管理
予算執行状況のリアルタイム把握は、適切な財政運営に欠かせません。システムのダッシュボード機能により、会計別の予算残高や執行率を視覚的に確認できます。各部署の担当者も自らの所管業務に関する予算状況を随時確認できます。
このような可視化により、予算の使い残しや過剰執行のリスクを早期に察知し、適切なタイミングで補正予算の編成や執行抑制の判断が可能になります。また、会計別・部署別・事業別など多様な切り口での分析機能により、特別会計の事業ごとの収支状況を詳細に把握し、経営改善のポイントを明確化できます。
他システムとのデータ連携
財務会計システムと他の業務システムとの連携により、さらなる効率化が実現します。人事給与システムとの連携では、職員の給与データが自動的に財務会計システムに取り込まれます。各会計への按分処理も設定に基づき自動実行されます。
税務システムや収納システムとの連携は、歳入管理の効率化につながります。税収や使用料の調定データが財務会計システムに連携されることで、収入予算の執行管理が正確に行えます。収入未済額の把握も容易になります。
文書管理システムとの連携では、予算執行に関する決裁文書と会計データの紐づけが可能になります。監査対応や議会説明の際に関連資料を迅速に参照でき、内部統制の強化にも寄与します。
業務効率化と高度化の実現
電子決裁やRPAの導入により、会計間の繰入繰出処理や決算統計作成などの定型業務を自動化し、作業時間の大幅な削減を実現できます。BIツールとの連携によるデータの可視化機能は、特別会計の収支分析や経営改善に向けた意思決定を支援します。これらの技術活用により、職員はより高度な財務分析や政策立案業務に注力することが可能となります。
都道府県や政令指定都市などの大規模自治体では、数十におよぶ特別会計の管理と複雑な会計間取引の処理が大きな課題となっています。
会計システム導入事例:ペーパーレス化で進める効率的な調達・支払い業務(兵庫県)
兵庫県では「新しい働き方」施策の一環として、NTTデータ関西が提供する財務会計システム「財務会計MASTER」とインフォマート社の「BtoBプラットフォーム」を連携した電子請求サービスを導入しました。
このサービスにより、紙の請求書から電子請求に切り替わり、発注から支払いまでの一連の処理を財務会計MASTER上で完結できるようになりました。結果として、ペーパーレス化による多様な働き方の推進と、担当者の入力・チェック業務の大幅な軽減を実現しています。兵庫県は、取引先事業者にも本サービスの活用を促進し、双方の会計事務の効率化を目指しています。
▼この事例の詳細については、次の記事をご参照ください。
総合財務会計システム「財務会計MASTER」と「BtoBプラットフォーム」を連携した電子請求サービスを兵庫県へ導入
NTTデータ関西が提供している「財務会計MASTER」は、地方自治体の予算執行、歳入、歳出、外現金、資金、決算に加え、予算編成や決算統計、電子決済などの財務会計業務を幅広くサポートします。
統一的な基準による財務書類作成
平成27年度から導入された統一的な基準は、自治体の財務情報の比較可能性と透明性を高める重要な制度改革です。発生主義会計と複式簿記の導入により、ストック情報を含む包括的な財政状況の把握が可能になります。
財務書類の体系と作成範囲
統一的な基準による財務書類は、貸借対照表、行政コスト計算書、純資産変動計算書、資金収支計算書の4表で構成されます。一般会計等財務書類では一般会計と公営事業会計以外の特別会計を合算し、全体財務書類ではすべての会計を連結して作成します。
固定資産台帳の整備
固定資産台帳は統一的な基準の要となり、すべての固定資産(土地、建物、工作物等)の取得価額と耐用年数を記録し、貸借対照表の資産計上の基礎となります。特別会計が管理する下水道施設、市営住宅、公営駐車場などの資産も事業ごとに分類して管理し、減価償却費の算定に活用します。
財務分析による経営改善
統一的な基準による財務書類から算出される各種指標により、自治体の財政状況を多角的に評価できます。特別会計では、行政コスト計算書から受益者負担比率を算出し、独立採算の達成度を把握できます。セグメント分析により、事業別・施設別の収支を詳細に分析し、効率化のポイントを明確にすることが可能です。
これらの財務情報は、事業評価や中長期財政計画の策定において重要な判断材料となり、データに基づく政策立案を支援します。
実務における課題と解決アプローチ
一般会計と特別会計の管理では、理論と実務のギャップに直面することが少なくありません。現場で発生する具体的な課題への対応策を理解しておくことが重要です。
データの正確性確保
一般会計と特別会計の管理では、データの正確性確保と業務の効率化の両立が常に課題となります。特に中小規模の自治体では、専門人材の不足により、高度な財政分析まで手が回らない実態があります。
会計間の繰入繰出処理では、計上時期のずれや金額の不一致が発生しやすい傾向があります。四半期ごとの照合作業を確実に実施し、早期に差異を発見する体制が重要です。システムによるチェック機能の活用も有効な対策となります。
データ入力の段階でのエラー防止も重要な課題です。会計区分の選択ミスや科目の誤適用により、決算時に大規模な修正が必要になるケースがあります。入力時の自動チェック機能や定期的な残高確認により、ミスの早期発見と修正が可能になります。
予算編成時の課題
予算編成時には、各会計の収支見通しと会計間の繰入計画を整合させる必要があります。特別会計の収支悪化が予想される場合、繰出額の増加が一般会計の予算編成を圧迫します。中期財政計画との連動により、計画的な対応が求められます。
特別会計の収支改善には時間がかかるため、短期的な視点だけでなく、中長期的な経営戦略が必要です。料金改定、経費削減、サービスの見直しなど、総合的な施策を計画的に実施します。
各事業部門との調整も重要な課題です。財政部門は全体最適の視点で予算を査定しますが、事業部門は個別事業の必要性を主張します。データに基づく客観的な議論により、合意形成を図ることが求められます。
決算業務の効率化
決算業務において、各会計の集計作業は自治体職員にとって大きな負担となっています。特に統一的な基準による財務書類作成では、固定資産台帳の更新、減価償却費の計算、財務4表の作成など、従来にない作業が加わり、業務量が増大しています。
これらの複雑な作業に対しては、専用システムの導入による自動化が有効です。財務会計システムからのデータ自動出力機能を活用することで、決算統計の作業時間を大幅に短縮できます。また、決算審査や議会対応に必要な説明資料についても、定型的なテンプレートを整備することで、毎年の作成作業を効率化できます。
内部統制の強化
地方自治法の改正により、都道府県と政令指定都市には内部統制制度の整備が義務化され、市町村にも努力義務として導入が求められています。
会計業務においては、適切な職務分掌と相互牽制を確立し、起案から決裁、執行までの各段階に異なる担当者が関与する体制が必要です。システムによる承認フローの管理は、この統制環境を強化します。
また、システムのログ管理によりすべての操作履歴を記録することで、会計データの改ざん防止と不正抑止を実現し、トラブル発生時の原因究明にも役立ちます。
さらに、定期的な内部監査の実施により、会計処理の適正性や業務の効率性、規程の遵守状況を検証し、課題に対しては迅速な改善を図ることが求められます。
まとめ:会計管理の高度化で実現する持続可能な自治体経営
一般会計と特別会計の適切な運用は、自治体の健全な財政運営を支える土台です。それぞれの役割と特性を理解し、相互の関係性を踏まえた総合的な財政マネジメントを行うことが求められます。
統一的な基準に基づく財務書類の作成は、財政状況の透明化と経営改善につながります。ストック情報やコスト構造を的確に把握すれば、データに基づいた政策判断が可能になります。
さらにデジタル技術の活用は、財務業務の効率化と高度化を同時に推進します。限られた人的リソースを有効活用し、より付加価値の高い業務へ人材を集中させることで、持続可能な自治体経営の実現につながります。
NTTデータ関西の「財務会計MASTER」は、一般会計と特別会計を統合管理し、予算編成から執行管理、決算処理まで一貫したシステム環境を提供します。統一的な基準による財務書類の作成にも対応し、自治体の財政運営を包括的に支援します。







