ITでアスリート支援を“仕組み”に変える –GOATUSで挑む、応援が循環する社会へ

近年、スポーツ界ではトップアスリートの華やかな活躍が注目される一方で、そのすぐ下の層で活動資金や環境の不足に苦しむ「セミプロ・アマチュア層」の過酷な現実が課題となっています。また、少子化や教職員の負担増に伴う「部活動の地域移行」も、学校や自治体にとって急務のテーマです。
こうした社会課題に対し、ITの力で「応援の循環」を作り出そうとしているのが、NTTデータ関西の社内公募から誕生したスポーツSNSアプリ「GOATUS(ゴータス)」です。今回は、プロジェクトを牽引する飯田と松宮に、GOATUSに込めた想いや、応援をダイレクトに選手へ届けるための仕組み、そしてITが切り拓くスポーツ・文化の未来について語ってもらいました。
インタビューに答えた方

飯田 健太 (いいだ けんた)
株式会社NTTデータ関西 第二公共事業部 第一ソリューション担当
自治体向けの防災システムEYE-BOUSAI の営業に携わる。現在はスポーツ支援プラットフォーム「GOATUS」の新規事業立ち上げを担当し、企画・営業から事業推進のリーダーとして推進している。

松宮 美穂 (まつみや みほ)
株式会社NTTデータ関西 第二公共事業部 第一ソリューション担当
「GOATUS」のディレクター兼サービスデザイナーとして、自治体やアスリートなどのエンドユーザの視点を反映したサービス設計や機能開発、プロジェクトの運営を推進している。
目次
部署の垣根を超えた挑戦から始まった「GOATUS」
GOATUSが誕生したきっかけを教えてください。
飯田: NTTデータ関西には、既存の事業領域にとらわれない新しいビジネスの創出と、従業員の挑戦心を活性化させることを目的とした「新規事業提案制度」があります。私たちの上司である山下がこの制度に手を挙げたことが始まりでした。
これまでは、「公共なら公共」「法人なら法人」という部署ごとのドメインにしばられがちでした。そうした枠組みを超え、それぞれの強みを合体させる「横断型プロジェクト」として認められた第一号案件が、このGOATUSです。
実際に、公共事業部で防災システムなどを担当していた私をはじめ、多様なバックグラウンドを持つメンバーが7人ほど集まり、プロジェクトがスタートしました。
最初からスポーツという領域を定めていたのでしょうか?
飯田: 最初から明確なかたちがあったわけではなく、当初は「ITで地域を盛りあげたい」という漠然とした想いが軸にありました。しかし、地域活性化のあり方を探るなかで自治体の方々と対話を重ねていくうちに、「スポーツ」が持つポテンシャルの高さにあらためて気づきました。
スポーツは人を動かす力があるので、人口減少という地域の深刻な課題に対しても大きく貢献できる可能性を秘めています。また、ビジネス的な観点で見ても、スポーツ支援は「社会貢献」や「地域課題解決」として企業の経営層から理解を得やすいです。そのような点も、スポーツという領域に決めた理由のひとつです。
GOATUSの概要を教えていただけますか。
飯田: GOATUSは、アスリートとファン、企業や自治体などのスポンサーをダイレクトにつなぐスポーツSNSアプリです。ファンは、自分が応援したいアスリートに対して応援コメントを送ることができるほか、定額制プラン(パーソナルスポンサー)を通じて継続的に活動を支えることも可能です。
このサービスの大きな特徴は、ファンや企業、自治体などのスポンサーが、ITの力で「簡単かつ継続的」に選手を支援できる仕組みを構築した点にあります。こうした社会課題解決に向けたアプローチが評価され、2025年度にはグッドデザイン賞を受賞することができました。

ヒアリングで見えた、アルバイトと練習を両立するセミプロ層の実情
サービスをかたちにするうえで、どのような苦労がありましたか?
松宮: スポーツビジネスに関してはゼロからのスタートでしたから、机上でプランを練るのではなく、とにかく「現場の声」を聞くことに徹しました。スポーツ庁やオリンピック委員会の関係者、そしてさまざまな競技のアスリートやスポーツ関連企業の方々と何度も対話を重ねました。
そのなかで気づかされたのは、華やかに活躍するトップアスリートのすぐ下の層で、多くの選手たちが深刻な課題を抱えているという現実でした。競技を続けてトップを目指したいけれど、遠征費や用具代などの活動資金が圧倒的に足りない、と。アルバイトをしながら、練習時間を削って資金を捻出している「セミプロ・アマチュア層」がこれほどまでに多いのか、と衝撃を受けました。
その「経済的な壁」を壊すことがGOATUSのミッションのひとつになったのですね。
松宮: そのとおりです。私たちが目指すゴールは、スポーツにかかわるすべての人―「する人」「見る人」「支える人」の全員が、スポーツを通じて心豊かに暮らせる社会を築くことです。その大きなゴールのための第一の関門が、経済的な理由に左右されず、誰もがスポーツに挑戦し続けられる環境をつくることでした。
経済的に恵まれないから夢をあきらめる、あるいは活動機会がないから才能が埋もれてしまう。そんな状況を、ITの力で打破できないか。その想いが、GOATUSのコンセプトの根幹になりました。
9割以上の応援金をアスリートへ –IT企業ならではの支え方
GOATUSの特徴のひとつに、ファンから送られたエール(ギフティング)の9割以上が応援金としてアスリートへ支払われるという点があります。これはビジネスとして非常に大胆なモデルですが、どのような意図があるのでしょうか?
飯田: ここが、私たちがこだわった「IT企業としての姿勢」です。単にプラットフォームを運営して手数料を得るというモデルではなく、ITの仕組みでアスリートの利益を最大化することこそが、私たちが参入する意義だと考えました。私たちはITを活用して、ファンからアスリートへお金が流れる際の「摩擦」、つまり多額の手数料などの中間コストを極限まで減らす仕組みを作りました。
手数料を最小化すること自体が「支援」のひとつである、ということですね。
飯田: はい。NTTグループとしての信頼の基盤があるからこそ、こうした高い透明性と「最大9割以上の応援金の支払い」という仕組みが可能です。手数料で削ることなく、ダイレクトに選手のガソリン(資金)に変えるための設計です。
私たちは「お金を渡す」のではなく、「お金が循環するITのインフラを整える」ことで、スポーツ界に貢献したいと考えています。この「ITによる新しい支援のかたち」こそが、NTTデータ関西がやるべきDXだと思っています。
AIによる事前フィルターと「プロデュース投稿」が生む応援体験
最近はSNSでの誹謗中傷が深刻な社会問題になっています。安心安全なコミュニティをどう維持しているのでしょうか?
松宮: GOATUSでは、不適切なコメントが投稿されてから削除するのではなく、言葉を発する「投稿前」の段階でAIがリアルタイムでフィルターをかける仕組みを導入しています。テキストだけでなく画像も対象で、不適切な写真が投稿されないよう厳格にケアしています。
特にこだわった機能はありますか?
飯田: 特許申請中の「プロデュース投稿」があります。これは、コアなファンを対象として、選手の代わりに公式アカウントへ投稿できる権限を付与するものです。もちろん運営側の最終承認フローを経て公開されます。
例えば、あるアスリートのパーソナルスポンサーになっているファンが、素晴らしい写真を撮ったとします。その際、選手の代わりに公式アカウントで投稿できる権限を付与できます。もちろん「誰々さんが投稿した」という記載は入りますが、ファンが選手やチームを自らプロデュースできる。この「ファンエンゲージメント」を高めるための仕組みは、GOATUSならではの面白い機能だと考えています。
「部活動の地域移行」をITで支える –文化部へも広がる応援のかたち
個人への支援だけでなく、最近では「部活動の地域移行」という大きな社会課題への活用でも注目されていますね。
飯田: はい。一部の地域では、生徒の数が減っていたり、指導者の負担が大きかったりすることが問題となって、部活動の運営を学校から地域の民間団体などへ移行させる流れがあります。その場合、現場での集金管理や連絡業務が大きな負担になります。
その管理や業務にGOATUSを利用いただければ、透明性が高く事務負担の少ない運営が可能です。すでに一部自治体で実証が始まっているほか、多額の楽器維持費がかかる吹奏楽部などの文化部へも活用が広がっています。
松宮: 吹奏楽部などの文化部の方々も、地域住民やOB・OGが挑戦を見守り、応援したい関係を築くことができるという意味では運動部やアスリートと同じです。GOATUSが分野を問わず、誰もが夢を維持し続けられるためのインフラになれるよう、さまざまな取り組みをしている最中です。
自治体や企業との連携を本格化 –「応援」の新たな社会インフラを全国に届ける
実際に選手からはどのような反響がありますか?
飯田: GOATUSを利用してくださっている女子バレーボールの選手にお話を伺った際、「GOATUSを使い始めたことで、自分が想像していた以上に多くの方に応援されていることを実感し、大きな勇気をもらった」と仰っていたのが非常に印象的でした。
Vリーグなどで活躍する選手の多くは、日中は一般の従業員として働き、夜に練習を重ねるという生活を送っています。GOATUSが「個人でファンクラブを持つ」ような感覚で「裏側の努力」を発信して、ファンとの絆がより密接なものになったと伺っています。
松宮: 世界の舞台で戦うトップアスリートでもGOATUSはほかのSNSとは異なる特別な場所になっています。Instagramでの公式な報告とは別に、GOATUSでだけ見せる「プライベートな日常」や「素の想い」に対して、ファンの方々から非常に大きな反響をいただいています。
最後に、今後のビジョンをお聞かせください。
松宮: GOATUSの仕組みを「ふるさと納税」のように日本中に定着させたいと考えています。
自分の出身地の選手や、自分の母校の部活動。そうした「自分にとって大切な場所」で頑張っている人たちを、ITを通じて直接応援できる。そんな温かい応援の連鎖があたり前になる世界を作りたいです。地域のアスリートを応援することが、その地域の活力を生み出す。そんな「応援が循環する仕組み」を構築していきたいですね。
飯田: 私は、GOATUSを新しい「IP(知的財産)」として育てていきたいです。来年度(令和8年度)からは自治体との連携に向けて進めていますし、ゆくゆくは、有望な若手アスリートと支援したい大手企業をつなぐマッチングプラットフォームへも発展させていきたいですね。
少子化で子どもたちの選択肢が減っていくなかで、スポーツや部活動という「夢の場」を、ITの仕組みで守り続ける。NTTデータ関西として、日本を元気に、世界に誇れるスポーツ文化の基盤をDXで支えていくことが、私たちの使命だと考えています。
GOATUSでは、ITの力で効率化を追求するだけでなく、その先にある「人の想いの循環」を何よりも大切にしているのですね。GOATUSによって「応援が循環する仕組み」が日本中に定着したとき、どのような新しい景色が広がっていくのでしょうか。
ITが作り出す、これからの「想いの連鎖」に、期待が膨らみます。
GOATUS(ゴータス)は、アスリート、ファン、スポンサーを「感動」と「応援」でつなぐスポーツSNSアプリです。企業や自治体、教育機関などとのパートナーシップにより、地域振興や社会貢献を推進します。









