住民と向き合う時間を取り戻す - 一関市×NTTデータ関西が共創したスマート面談AIナビ「AiBou」誕生の軌跡

自治体DXの取り組みが全国で加速するなか、福祉現場では依然として記録業務や資料作成に多くの時間が割かれ、住民と向き合う時間の確保が課題となっています。この状況を打開する手段のひとつとして、生成AIによる業務効率化が大きく注目されています。こうした背景のもと、岩手県一関市とNTTデータ関西が「業務の効率化」と「より相談者に寄り添う福祉の実現」を掲げて共創したのが、スマート面談AIナビ「AiBou(アイボウ)」です。
実証実験の段階から現場職員が「このまま現場で使い続けたい」と熱望したシステムは、どのように「共創」されたのでしょうか。今回は、岩手県一関市 福祉部福祉課の藤江さま、鈴木さま、齋藤さまに、詳しい話を伺いました。
インタビューに答えた方

藤江 功 (ふじえ いさお)
一関市福祉部福祉課 生活福祉第一係 係長(査察指導員・社会福祉士)
福祉現場のDXを牽引。現場の「理想のツール」を実現すべく、NTTデータ関西との共創プロジェクトをリードし、ICT活用を通じた業務改善と支援体制の構築を推進。

鈴木 政人 (すずき まさと)
一関市福祉部福祉課 生活福祉第一係(ケースワーカー)
現場の声を代弁する実務リーダー。ワークショップを通じて現場視点のインサイトを注入し、事務負担の軽減と、職員が住民支援に注力できる環境づくりに尽力。

齋藤 佳奈 (さいとう かな)
一関市福祉部福祉課 生活福祉第二係(ケースワーカー)
社会福祉士の専門性を生かし、現場の最前線でデジタル活用を実践。経験の浅い職員でも質の高い「傾聴」を実現できる、新たな福祉の働き方を体現している。
目次
「心と心をつなぐ」福祉を守るために -面談と記録に追われた現場の危機感
はじめに、一関市福祉部福祉課のミッションや、具体的な業務内容を教えてください。
藤江: 私たちの最大のミッションは、支援を必要としている住民の方々の自立を支え、安心して暮らせるようサポートすることです。具体的な業務内容は、生活保護関連の相談や就労支援など多岐にわたりますが、その本質は単なる事務手続きではありません。
福祉の仕事とは、相談者の方と直接お会いしてさまざまな思いを引き出したり、適切な支援へ繋げたりすること。つまり、「心と心をつなぐ」ことこそが、我々のミッションだと考えています。
今回、福祉現場でのDXに取り組まれた背景にはどのような課題があったのでしょうか。
藤江: 一関市全体として、市長や副市長を中心にDXを強力に推進しようという土壌が整っています。実際に「全国自治体フロントヤード改革度ランキング2024」では全国5位、「全国自治体DX推進度ランキング2024」では全国6位という評価もいただいています。
一方で、現場には以前から「住民の方々と向き合う時間が少ない」という切実な課題がありました。本来、私たちの仕事は「その人のために、今後どのような支援が必要か」を熟考することに時間を割くべきです。しかし、実際には膨大な事務処理や記録作成に追われ、目の前の業務をただ「こなすだけ」の状況が多くなっていることに強い危機感を感じていました。
少しでも早く次の支援に動きたいのに、記録にしばられて身動きが取れない。そんな歯がゆい状況に加え、令和5年頃には職員の大幅な入れ替わりとコロナ禍が重なりました。「このままでは、福祉の心に寄り添うという本来の役割が果たせなくなる」という危機感があったのです。そこで、このピンチを逆に「仕組みを根本から変えられるチャンス」ととらえ、AIも活用した抜本的な業務改善に踏み切ることにしました。
一問一答の機械的な面談を越えて 現場が切望した「話すだけで記録ができる」システム
業務改善のために、どのような行動を取られたのでしょうか。
藤江: まずはケースワーカーの業務実態を把握するため、業務と課題を詳細に洗い出し、業務改善の取り組みを検討しました。そのなかで、最も時間を費やしているのが「訪問・面談・記録作成」という一連の業務だとわかったのです。ここを効率化するためにICT化を検討し、約20種類以上のシステムを試用して、10社以上のベンダーと協議を重ねました。そのなかには、NTTデータ関西のケースワーカー支援システム「サポとも」もありました。
数多くのツールを比較検討されたのですね。
藤江: はい。しかし、どれも私たちの理想通りではありませんでした。既存のシステムは、面談しながら項目を埋めていく入力補助タイプが主流です。実際に試してみると、どうしても画面の入力項目を埋めることに意識が向き、相談者の方に対して一問一答で確認を繰り返すような、機械的なやり取りになってしまったのです。
事務処理の手間が減っても、肝心の面談そのものがおろそかになっては本末転倒です。「メモを取らなくても、自然に話をしているだけで勝手に記録ができていたらいいのに」。そんな、当時の私たちにとっては魔法のような「あったらいいな」という理想そのものを、多くのベンダーさんに率直にぶつけてみました。
するとNTTデータ関西の皆さんは「一緒にやりましょう」と手を挙げてくださいました。多くの企業が「パッケージ製品をどう使うか」を提案するなかで、私たちの理想を「共創」というかたちで実現しようと言ってくれたのです。
「まずはやってみましょう」から始まった共創 -現場の声を形にした伴走の力
NTTデータ関西の印象はどのようなものでしたか。
藤江: 私たちの「こんなことができたらいいな」という、一見ハードルの高いリクエストに対しても、決して「できない」とは言わず、「まずはやってみましょう」と柔軟に受け止めてくれました。とても寄り添ってくれる、といった印象です。
NTTデータ関西は関西の企業ですので、一関市と地理的な距離はありますが、今はZoomなどのオンラインツールも充実しています。密にコミュニケーションが取れたことで、距離の壁を感じることもまったくありませんでした。
日々連携を重ねていくなかで特に驚いたのは、その圧倒的なスピード感と柔軟性です。企画面から開発、実装に至るまで、持ち帰って確認するのではなく、「その場で話をまとめて次の打ち合わせには対応してもらえる」という場面も多々ありました。その真摯な姿勢を見て、この人たちと共創したツールは理想の「相棒」になるだろうな、と確信したのです。
開発プロセスも、現場に寄り添ったものだったと伺っています。
鈴木: はい。NTTデータ関西と一関市の職員を交えてワークショップを開催したのですが、現場の若手職員も「自分たちのツールを作るんだ」と前のめりで参加しました。
藤江: しかも、実証実験が終わるタイミングで現場から「このまま使い続けたい」という声が上がりました。プロのデザインが入る前の、いわば「試作品」の段階で、AiBouはすでに現場の「相棒」になっていました。
私たちの細かなこだわりに対しても決して妥協せず、別の手法を提案してはブラッシュアップを繰り返してくれました。こうした「現場のリアルな葛藤」に寄り添ってくれたからこそ、AiBouが完成したのだと感じています。
メモを置いて視線を交わす安心感 AIが変えた住民支援の対話の質
AiBouを導入してから、現場の働き方はどのように変わりましたか。
齋藤: 私はケースワーカーの新人として当初からAiBouを使っており、毎日一緒に訪問に行っています。慣れてくると、これなしで訪問に行くのが不安になるほどです。
何より嬉しいのは、今まで以上に住民の方と目を合わせて話せるようになったことですね。以前はメモを取るために下を向く時間が長かったのですが、今は「自分がメモしきれなくても、AIが会話を拾ってくれる」という安心感があります。その分、住民の方の話に深く耳を傾ける「余裕」が生まれました。
鈴木: AiBouには録音やメモ、画像記録といった面談に必要なツールが集約されており、タブレット端末からログインするだけで使えます。以前は地図やボイスレコーダーなど、多くの道具が入ったカバンを持って訪問していましたが、今はタブレットひとつで身軽になり、心身ともにゆとりが生まれました。
面白いのは、AiBouがケースワーカーごとに「自分なりの相棒」として使い分けできている点です。例えば、方言が強くてAIの認識が難しい場面では従来の手法を組み合わせたり、逆にメモ代わりとして活用したり。決まった使い方、AiBouに合わせた業務フローの変更をせず、特定の機能にしばられず、各職員が自分なりの「使いやすさ」を見つけて柔軟にAiBouを活用できています。経験の浅い職員にとっても、福祉の専門知識を確認する手助けになっているようです。
藤江: 住民アンケートでも「以前より話をよく聞いてくれるようになった」という声が実際に届いています。下を向いてメモを取る「作業」ではなく、「傾聴」ができるようになった。AIというデジタル技術を利用したことで、より人間らしい「心と心をつなぐ」という福祉本来の仕事ができるようになった。これがこのプロジェクト最大の成果だと感じています。
業務効率化による具体的な効果はありましたか。
藤江: 支援を決定するための資料作成が圧倒的に早くなりました。今までは「思い出しながらゼロから書く」のが基本でしたが、今はAIが作った資料案を「答え合わせ」のように修正するだけです。支援決定までのサイクルが短縮されたことで、結果として住民に早く必要な支援を届けられています。
今後は生活保護の枠を越え、自治体全体の情報共有や連携の形を変えるプラットフォームに育てていきたいです。
一関市の知恵を全国の自治体へ 現場の声で育て続ける「AiBou」の未来
こうした共創活動が評価され、「いわてデジタルトランスフォーメーション大賞2025(いわてDX大賞2025)」で特別賞を受賞されたのですね。
藤江: はい、現場のみんなが頑張った結果が評価されて良かったです。この賞は岩手県内の企業や自治体のDX事例を共有・表彰し、地域全体のデジタル化を後押しするものです。実証実験から始まったケースワーカーのシステムの積極的な活用や、改善のため現場での対話など、関与メンバー全員の活躍のおかげで特別賞(市民サービス向上賞)を受賞できました。まさに目指していた市民に寄り添った行政サービスの実現が評価されたと感じています。この取り組みを発表するにあたって、NTTデータ関西の担当者の方に相談して、資料作成やプレゼンなどにも尽力いただきました。
他の自治体の方へ伝えたいメッセージをお願いします
藤江:AiBouは単なる記録作成ツールではなく、使い手次第でさまざまなツールとして活用できると思います。全国各地の現場の声が反映され、ブラッシュアップされていくことで、活用の幅はさらに広がり、福祉のDXも加速していくでしょう。この福祉現場のDXをきっかけとして、福祉という仕事の尊さを守り、福祉業界全体の未来をより明るいものに変えていく。そのための大きな一歩を、全国の仲間と共に踏み出していければ嬉しいです。
AiBouを通じて、一関市さまと住民の方々との「心と心をつなぐ」関係がいっそう深まるよう、NTTデータ関西も引き続き現場に寄り添ったサポートに尽力いたします。本日はありがとうございました。
当社担当者のコメント
AiBouは、生成AIをピンポイントで活用するだけではなく、面談業務を多角的にとらえることを大切にしています。個々の業務の「点」をつなげて「線」とし、さらにそれらを統合して「面」として把握することで、生成AIやロジックベースの機能を多角的に活用します。
また、開発においては、企画から実装までを一貫して担える「フルスタックエンジニア」がプロジェクトに伴走することで、一関市の皆様の熱意あるご要望を即座に形にできる体制を整えました。
面談を通じて、職員の方と住民の方がより深く向き合える。そのような環境を支えるツールでありたいと願っています。
▼AiBouについて
本取り組みについては、下記のページもあわせてご参照ください。
・導入事例:スマート面談AIナビ「AiBou」 一関市様の導入効果と今後の期待
・お知らせ:岩手県一関市との共創による生成AI活用の取り組みが「いわてデジタルトランスフォーメーション大賞2025」において「市民サービス向上賞」を受賞
NTTデータ関西では自治体の業務効率化に繋がる「行政サービスソリューション」を提供しています。
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