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DX成功へ導くためのビジョンとロードマップの策定方法

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日本の企業や自治体、さまざまな分野、業種でDX推進の動きは高まっています。一方で、デジタル化はある程度進み、一部の業務改善は実感できているにもかかわらず、DXが組織全体に進んでいる効果が得られていない、というところも少なくないようです。この原因はどこにあるのでしょうか。一般的にデジタル化で停滞してしまった場合、その原因は、DXの目的や目指す方向性が明確でないから、と言われます。業務がある程度改善され、作業がしやすくなると、満足感や達成感が得られるので、そこで取り組みがあいまいになってしまうようです。その状況を乗り越え、DXを実現するにはどうすればよいのでしょうか。

今回は、DX成功へと導くためのビジョンとロードマップにスポットを当てて考えてみましょう。

DXとその目的について確認

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業や自治体、組織において、取り組みが加速しています。経済産業省の定義によるとDXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。

つまり、 DXを推進することで、企業が求める理想の姿へと変わることが目的 だといえます。

また、具体的な効果としては、経済産業省が提起している「2025年の崖」問題を回避し、レガシーシステムを刷新することで、技術の属人化や人材不足への対応、働き方改革の促進等、多くのメリットが期待されています。

DXに取り組むことで、業務の効率化が図られ、業務負担が軽減されるといった現場のメリットも生まれるでしょう。それにより、生産性の向上や、就労環境の充実による従業員のエンゲージメント向上ももたらされると予想されます。

しかし、こうしたメリットはDX推進の過程における業務のデジタル化によってもたらされるものであり、DXの大きな目的は、こうした業務の見直しや業務フローの改変を積み重ね、新しい価値を創造し、ビジネスモデルを改変して、競争力を高めることです。

DXの定義や導入する際の注意点などは次の記事をご覧ください。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義と導入時の課題、成功へのポイントについて

DXの進め方

改めて、DXの基本的な進め方を確認しておきましょう。

現状を把握する
デジタル化を進めることはDX推進の第一歩です。どの業務をどのようにデジタル化し、どのように改善することが求められているのか、それを知るためには、現状の課題をそれぞれの業務で洗い出す必要があります。作業時間がかかりすぎている、人的リソースが足りないときがある、製品にムラがでる、対応できる人が限られている、など業務の現場にとって、改善したい点はさまざまです。現状を見直して丁寧に洗い出しましょう。そして、いまの困りごとは何が原因になっているのかを明確にしておきましょう。
たとえば、製品にムラがでるという背景には、担当する技術者によって精度が違う、あるいは、担当できる技術者が限られているため、担当者がいないときにはラインが止まるといった根本原因が潜んでいるはずです。そこまで明確にしておく必要があります。
DXのビジョンを立てる
現状が把握できたら、DX推進によってどこを目指すのかを検討しましょう。企業が理想とする姿を描くことが重要です。
ロードマップを策定する
ロードマップというのはゴールまでに行うべきことを時間軸で示した具体的な計画書です。たとえば、すぐに取り組むべきこと、短期的に取り組むべきこと、中・長期的に取り組むべきこと、のようにそれぞれで考えておく必要があります。
ロードマップを策定する段階で、洗い出した課題を解決する優先順位を考えます。どこから、どのようにいつまでに対応し改善を図るのか、順番に計画に盛り込んでいきます。
ここで注意しておくことは、何を、いつまでに、どのような方法で実施していくのかといった具体的な手順がわかるようにしておくことです。
一気に企業全体を変革しようとしても現場から反発をうけたり、混乱したりする場合もあります。
「何を(範囲)」「いつまで」「どのような方法で」を決める際には、取り組みやすい業務から、小さくはじめることが重要です。
ロードマップの完成度がDX推進を左右するといっても過言ではありませんので、慎重によく考えて策定しておきましょう。
KPI(重要業績評価指標)を設定する
KPIとは「Key Performance Indicator」の略称で、「重要業績評価指標」のことです。目標達成がどこまで進んでいるかを数値で確認するために示すものです。これによって現状と目標までの差が確認でき、その差を埋めるために必要な追加対応などのヒントが得られます。
このような到達度把握の指標となるKPIは、客観的な評価基準を設けることが必要です。それぞれの段階で目標数値を明確にしておき、到達しているかどうかを判断します。
また、KPIの目標設定は、評価しやすく、適正だと全従業員が納得できる数値にしておく必要があります。KPIを設定する際に意識しておくべき要素は次の5つです。
明確性(Specific)
明確で誰がみても同じレベルで認識ができる指標を設定します。
測定可能性(Measurable)
測定可能な数値でなくてはなりません。数値化できない定性的な目標を設定すると、目標までどれくらい達成できたのか、期限に間に合うのかなど、評価を数値で判断できず、感覚的なものになります。感覚的な評価にすると、人によって感じ方が異なるので共通認識が得られなくなります。
達成可能性(Achievable)
KPIは達成率100%を目指す指標なので達成可能な数値であることが大切です。取り組む前からムリだと思われる目標を掲げると到達できません。
関連性(Relevant)
最終目標に到達するための中間目標がKPIであり、最終目標と方向性が同じで、リンクしたものである必要があります。
適時性(Time-bounded)
KPIは数値設定だけでなく「いつまでに」到達するのかを定めておく必要があります。期限が決まっていないと、結局、到達しなくてもいい、という意識が生まれるおそれがあります。
DX推進組織を構築する
次に重要なのがDX推進組織を構築することです。DXは企業の理想とするあり方を達成するための取り組みであるため、企業のこと、業務のこと、現場のことなど加えITに関わるさまざまな知見が必要です。いくつかの組織構築タイプがありますので、どれが適しているかを、自社の状況から判断することが重要です。
たとえば、既存のIT部門を拡張して事業部門からメンバーを招集し、DX推進組織にすることが考えられます。
また、事業部門を中心としながら、DX推進組織の結成もできます。この場合は、業務や現場のことがよくわかっているので、現状の課題をどのように変革していくのかについての方向性は定まりやすいかもしれません。一方、欠かせないIT化への対応が専門外となるため、IT部門と協働でDX推進組織を構築することになるでしょう。
専門にDX推進組織を結成する方法もあります。事業部門、IT部門それぞれの兼務ではなく、専門組織としてメンバーを招集し、DX推進に専念させるものです。専門組織には経営層にも加わり、DXを推進していきます。
専門組織を構築するのが、成功しやすいと考えられますが、他部署の意見や、状況を確認しながら進めないと、現状と理想のギャップを埋められないままデジタル化だけが進んだ、という結果になるおそれもあります。
実行に移す
ロードマップに沿って、DX推進を実行します。
PDCAサイクルによって評価と修正を繰り返しながら目標達成まで継続する
実行に移した取り組みは、KPIを活用して定期的に評価し、改善点は修正を加えながら再度実行する。これを繰り返します。

ビジョンとその必要性

DXを推進するうえでのビジョンとは、「企業が目指す理想的な姿」と言い換えることができます。DXを推進して、どのような企業になりたいと考えているのかを明確にしたものがビジョンです。企業理念の一部ともいえるでしょう。

必要性

ビジョンの策定が必要だと言われるのは、DX推進をしてどこを目指しているのかがわからなくなるおそれがあるからです。DXを推進する過程で、アナログで行っていた作業をデジタル化したり、各部署でバラバラに扱っていたデータを一元化したり、業務を連携させたりなどのデジタル化が進みます。その段階で、業務が改善され、業務負担が軽減されることもあります。ここで満足してDX推進を止めてしまうと、業務改善にはなりますが、新しい価値創造ができるビジネスモデルの改変には至らないおそれがあります。

そうならないためには、何を目指すのかを明確にしたビジョンが必要です。

DXビジョンの具体例

それぞれの企業がDXビジョンを掲げています。参考にみておきましょう。

富士フイルムグループ
「わたしたちは、デジタルを活用することで、一人一人が飛躍的に生産性を高め、そこから生み出される優れた製品・サービスを通じて、イノベーティブなお客さま体験の創出と社会課題の解決に貢献し続けます。」
味の素グループ
「『アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献する企業』として、社会変革をリードする存在でありたいと願っています。」

ビジョンの策定方法

ビジョンの策定は、未来にどうありたいかを明確に思い描くことが重要です。

2つの視点で考える

まず、企業の理念を改めて確認しましょう。そのうえで、2つの視点をもってビジョンを考える必要があります。 ひとつは「あり方」 です。DXを推進して、どのような企業になりたいのか、DXが実現されたとき、どのような企業でありたいのか、その「あり方」を見据える必要があります。

もうひとつは「社会との接点」 を考えることです。社会に対してどのような価値を提供し、貢献するのかを考えておきます。

この2つの視点から企業の実現したい未来の姿を考えます。

強みを分析する

次に、自社の強みを分析しましょう。競争力を高めることを目指すため、強みをさらに強化し、付加価値の高いものにする、という方向性で考えるのがよいでしょう。

未来の姿を想像し、逆算する

さらに、DXのビジョンを策定する際には、未来の姿を明確に想像することも大切です。たとえば、10年後のあるべき姿を考えると、10年後にそうなるためには、いま、何を優先的に取り組むべきかが明らかになります。

ロードマップとその必要性

ロードマップというのはゴールまでに行うべき事項を時間軸で示した計画書です。たとえば、すぐに取り組むべきこと、短期的に取り組むべきこと、中・長期的に取り組むべきこと、のようにそれぞれを考えておく必要があります。

必要性

ロードマップはゴールまでの時間軸で示した地図です。この地図がなければ、どれを優先して取り組めばよいのかがわかりません。また、この取り組みの次に何を取り組めば効率的で、効果が得やすいのかなどの見通しが立たなくなります。

取り組みが混乱しはじめると、DX推進の意欲が削がれ、中途半端な状態で停止してしまうおそれがあります。そうならないためにも、時間を区切って取り組むことを明確にしたり、中・長期で取り組むべきことを明確にしたりすることで、ゴールに向けて継続した取り組みができるのです。

ロードマップの策定方法

ロードマップを策定するときには、抱えている課題や自社の特徴を分析することが必要です。そうした作業に有効なフレームワークがあります。

フレームワーク

それぞれのフレームワークの特徴とどのような効果があるのかについてみておきましょう。

3C分析
Customer(顧客)・Company(自社)・Competitor(競合)の頭文字をとって3C分析と呼ばれます。顧客の消費行動や心理に対して、自社の戦略と競合の戦略を比較し、自社の強みと課題点を把握できます。3C分析の視点は外部環境を分析することで、自社の状況を理解することです。
4C分析
Customer Value(顧客価値)、Cost(顧客コスト)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)の頭文字から4C分析と呼ばれます。3C分析が自社からみた外部環境を分析することで、自社の状況を理解するときに使いやすい分析方法であるのに対して、4C分析は顧客の視点で、顧客が商品を購入するまでに大きな影響を与える要素を分析します。4C分析を行うことで、自社の製品やサービスのマーケティングにおける課題を見つけやすくなります。
SWOT分析
企業の内部環境と外部環境における「プラス面」「マイナス面」を分析できます。
Strength(強み)・Weakness(弱み)・Opportunity(機会)・Threat(脅威)の頭文字からSWOT分析と呼ばれます。
PEST分析
Politics(政治)・Economics(経済)・Society(社会)・Technology(技術)という4つの外部環境を分析するもので、それぞれの頭文字をとってPEST分析と呼ばれます。自社の事業に影響を与えている外部環境を分析することで、社会の動きに適応した戦略を練ることができます。
VC分析
バリューチェーン(Value Chain)とは、原材料を調達し、商品やサービスが顧客に届くまでの企業の活動の連鎖を「物の連鎖」「価値の連鎖」として考えます。そのうえで、主活動と支援活動に分けて、どの行程で付加価値を出しているのかを分析するのがVC分析です。
企業の強みや弱みの把握がしやすい分析方法です。

ロードマップの作り方

ロードマップの作り方をポイントごとにみておきましょう。

現状を把握、分析する
ロードマップは時間軸に沿った行動計画ですから、現状を把握し、どのような状況であるのかを分析することからはじめます。
業務フローにおける課題、競合他社との比較による自社の課題などを分析しておきます。その分析から、DXで解決すべき課題や目指す姿が明らかになります。
KPI(重要業績評価指標)を設定する
ロードマップのとおりに進行しているかどうかを確認するために、客観的な評価基準を設けます。その際、それぞれの段階で目標数値を明確にしておき、到達しているかどうかを判断します。
KPIの設定については、上記に詳細を紹介しています。
具体的なデジタル化を計画する
アナログな作業やレガシーシステムの存在を明らかにしたら、どこからデジタル化を進めるのかを計画します。ここで注意すべきは、一気にデジタル化を進めると、混乱が生じやすい点です。取り組みやすいところ、あるいは、優先すべき業務においてデジタル化を進め、スモールスタートを心がけます。
スモールスタートした結果を評価し、修正を加え、さらに実行します。徐々にデジタル化する範囲を広げていくように、順番や時期を考え、計画を立てます。
企業全体のデジタル化を進める
一つひとつの作業や業務のデジタル化を進めたうえで、企業活動全体を眺め直し、ビジョン達成に近づいているかどうかを評価します。ビジョンと現状との差を埋めるためのデジタル化をさらに進め、新しい価値創造ができる体制へと改変していきます。
DX推進におけるビジョンやロードマップの策定方法については以下の記事をご覧ください。
DX戦略とは。立案ポイントと活用できるフレームワーク

まとめ: DX実現は、中間目標をひとつひとつクリアすることが大切

DX推進の必要性は多くの企業、自治体、組織で認識しています。しかし、理解はしていても、デジタル化が進み、業務が改善され、作業負担が軽減されると、取り組みへの熱意が薄れるケースは少なくありません。DXを進めるとき、一気に企業全体で取り組みをはじめると、取り組むべき方向性が見えづらくなり、うまくいきません。スモールスタートが推奨されるのはそのためです。同様に、いきなりゴールを目指して走り出しても、息切れをして走るのを止めてしまうことがあります。DXへの取り組みも、目指すビジョンを掲げた後は、 優先順位の高いものから、ひとつひとつクリアすることが成功への近道 です。

そのためには、「いつまでに」「何を」「どのように」進めていくのかを明確にしたロードマップが重要なのです。

到達できたという実感が積み重なると、やりがいも、挑戦する意欲も高まります。DX実現は、道のりが長く、継続的な取り組みが必要です。

まずは、課題を明確にして、何から改善に取り組むのか、どうやって進めていくのかをロードマップとして策定してみましょう。