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DX推進の指標設定は、成功率を上げるカギ

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DX推進に限らず、目標を定め行動を起こす際、その過程において 定期的に現状を把握するための指標を設ける ことは大切です。なぜなら、現在はどの程度、目標に向けた活動ができているのか、方向性がズレていないかなどを把握することで、ゴールへの道のりを歩み続けられるからです。

DX推進では、作業のデジタル化や、業務のデジタル化を進める過程で、そこが最終目的であったと感じてしまうと、DXでめざした「企業の理想の姿」へはたどりつけません。では、DX推進における指標とはどういったものでしょうか。今回は、DX推進の成功率を上げるための指標について経済産業省が示している「『DX推進指標』とそのガイダンス」を中心にみていきましょう。

DX推進指標とは

経済産業省が2018年7月に公表した「『DX推進指標』とそのガイダンス」のなかで、「DX推進指標」は、DX推進に向けて、経営者や社内の関係者が、 自社の取り組みの現状や、あるべき姿と現状とのギャップ、あるべき姿に向けた対応策 について認識を共有し、必要なアクションをとっていくための気付きの機会を提供することを目指すものであるとしています。

DX推進指標の必要性

なぜDX推進指標が必要だと考えられているのかについて、「『DX推進指標』とそのガイダンス」のなかでは、DXの必要性を経営者が認識しているにもかかわらず、その取り組みが実際のビジネス変革につながっていないことをあげています。そして、その具体的な課題として次の3項目を指摘しています。

顧客視点でどのような価値を創出するか、ビジョンが明確でない
概念実証からビジネスにつながらない理由として、 顧客視点でどのような価値を創出するのか について、なにを(What)創出するのかが具体的に語られていないことが考えられます。どのように取り組むのか(How)に注力するあまり、どうありたいのか、を示す言葉が足りていない状況が原因のひとつだといえそうです。
号令だけでは、経営トップがコミットメントを示したことにならない
DXに向けて経営トップが内外に号令をかけても、コミットメントを示したことにはなりません。どのように取り組みを進め、企業内に根付かせていくのか、 経営の仕組みをどう変えていくのかについての明確な提示が必要 です。
具体的な仕組みとして、組織を整理し権限を委譲しているか、適切な人材・人員をアサインしているか、予算を十分に配分しているか、人事評価の仕方を見直しているか、人材育成・確保を行っているか、などを確認し実行していく必要があります。
DXによる価値創出に向けて、その基盤となるITシステムがどうあるべきか、認識が十分とはいえない
多くの企業の現状をみると、ITシステムを導入してはいるけれど、部門ごとに個別に最適化が図られたうえ、都度のカスタマイズが繰り返された結果、 ブラックボックス化しているケースが少なくない といわれています。これを解消できないと全社的にDXを展開することは難しくなります。
ITシステムに求められる要素としては次の3点があげられます。
データをリアルタイムに、適切な形で使えること
変化に迅速に対応できるデリバリースピードを実現できること
データが部門を越えて全社で最適に活用できること
こうしたデータ環境を実現することの必要性は認識されていても、経営者がその取り組みにコミットメントを示し、対応を見守ることは少ないのが現状でしょう。多くの場合、IT部門といった関係部署に任せてしまうケースが一般的だと考えられます。しかし、経営者自らが現状を認識して、必要な対策を講じることが重要です。

こうした3点の課題を解消するために、DX推進指標を策定し、活用することが重要なのです。

DX推進指標の構成

「『DX推進指標』とそのガイダンス」に示されているDX推進指標は、「 DX推進のための経営のあり方、仕組み 」に関する指標と「 DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築 」に関する指標の2つで構成されています。それぞれの指標で定性指標と定量指標が示されています。定性指標は指標ごとに「キークエスチョン」「サブクエスチョン」の質問が設定されています。

キークエスチョンは、経営者が自ら回答する のが望ましいものです。 サブクエスチョンは、経営者が経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門などと議論をしながら回答する ものです。

出典: 『「DX 推進指標」とそのガイダンス』 (経済産業省)

キークエスチョンはつぎの9つです。サブクエスチョンは「・」で示した質問で、キークエスチョンに関連して、設けられています。

ビジョン
データとデジタル技術を使って、変化に迅速に対応しつつ、 顧客視点でどのような価値 を創出するのか、社内外でビジョンを共有できているか。
危機感とビジョン実現の必要性の共有
将来におけるディスラプションに対する危機感と、なぜビジョンの実現が必要かについて、社内外で共有できているか。
経営トップのコミットメント
ビジョンの実現に向けて、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化を変革するために、 組織整備、人材・予算の配分、プロジェクト管理や人事評価の見直し などの仕組みが、経営のリーダーシップの下、明確化され、実践されているか。
マインドセット、企業文化
挑戦を促し失敗から学ぶプロセス をスピーディーに実行し、継続できる仕組みが構築できているか。
・継続するのに適した体制が権限委譲を伴って構築できているか。
・継続するのに適したKPIを設定できているか。
・KPIに即し、プロジェクト評価や人事評価の仕組みが構築できているか。
・KPIに即した投資意思決定や予算配分の仕組みが構築できているか。
推進・サポート体制
DX推進がミッションとなっている部署や人員と、その役割が明確になっているか。また、必要な権限は与えられているか。
経営・事業部門・IT部門 が目的に向かって相互に協力しながら推進する体制となっているか。
外部との連携 にも取り組んでいるか。
人材育成・確保
DX推進に必要な人材の育成・確保に向けた取り組みが行われているか。
・事業部門において、顧客や市場、業務内容に精通しつつ、デジタルでなにができるかを理解し、DXの実行を担う人材の育成・確保に向けた取り組みが行われているか。
・デジタル技術やデータ活用に精通した人材の育成・確保に向けた取り組みが行われているか。
・「 技術に精通した人材 」と「 業務に精通した人材 」が融合してDXに取り組む仕組みが整えられているか。
事業への落とし込み
DXを通じた顧客視点での価値創出に向け、 ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化の改革 に対して、現場の抵抗を抑えつつ、経営者自らがリーダーシップを発揮して取り組んでいるか。
・戦略とロードマップが明確になっているか。
・ビジネスモデルの創出、業務プロセスの改革への取り組みが、部門別の部分最適ではなく、社内外のサプライチェーンやエコシステムを通したバリューチェーンワイドで行われているか。
・改革の途上で一定期間、成果が出なかったり、既存の業務とのカニバリゼーション(競合)が発生したりすることに対して、経営トップが持続的に改革をリードしているか。
ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築
ビジョン実現(価値の創出)のためには、既存のITシステムにどのような見直しが必要であるかを認識し、対応策が講じられているか。
・データを使いたい形で使えるITシステムシステムとなっているか。
・環境変化に迅速に対応し、求められるデリバリースピードに対応できるITシステムになっているか。
・部門を越えてデータを活用し、バリューチェーンワイドで顧客視点での価値創出ができるよう、システム間を連携されるなどにより、全社最適を踏まえたITシステムになっているか。
・IT資産の現状について、全体像を把握し、分析・評価できているか。
・価値創出への貢献が少ないもの、利用されていないものについて、廃棄できているか。
・データやデジタル技術を活用し、変化に迅速に対応すべき領域を精査のうえ特定し、それに適したシステム環境を構築できているか。
・標準パッケージや業種ごとの共通プラットフォームを利用し、カスタマイズをやめて標準化したシステムに業務を合わせるなど、トップダウンで機能圧縮できているか。
・ITシステム刷新に向けたロードマップが策定できているか。
ガバナンス・体制
ビジョンの実現に向けて、IT投資において、技術的負債を低減しつつ、価値の創出につながる領域への資金・人材を重点配分できているか。
・新規に投資すべきもの、削減すべきもの、標準化や共通化等について、全社最適の視点から、部門を超えて横断的に判断・決定できる体制を整えられているか。
・ベンダーに丸投げせず、ITシステムの全体設計、システム連携規範の企画や要求定義を自ら行い、パートナーとして協創できるベンダーを選別できる人材を確保できているか。
・各事業部門がオーナーシップを持って、DXで実現したい事業企画・業務企画を自ら明確にし、完成責任まで負えているか。
・「どんなデータがどこにあるかをわかっている人」と「データを利用する人」が連携できているか。
・データを活用した事業展開を支える基盤(プライバシー、データセキュリティなどに関するルールやITシステム)が全社的な視点で整備されているか。
・ITシステムができたかどうかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組みとなっているか。

定性指標

DX推進の成熟度を評価するのが定性指標です。

先に示した「DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標」において、DX進捗の枠組みに関する項目を定性指標で評価します。

また、「DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築に関する指標」においてはITシステム構築の枠組みを定性指標で評価します。

定性指標では、成熟度をレベル0からレベル5までの6段階で評価します。「まだDXへの取り組みになにも着手していない」レベルを0とし、「ありたい姿、目標とした体制構築」に至ったレベルを5としています。

レベル0
DX推進に関する取り組みがまだ実施されていないレベルです。
レベル1
全社戦略は明確ではないけれど、部門単位での試行・実施が行われているレベルです。
レベル2
全社戦略に基づいて一部の部門で取り組みがはじまったレベルです。
レベル3
全社戦略に基づいて、部門横断的に取り組みが実施されているレベルです。
レベル4
定量的な指標による持続的な取り組みが実施されているレベルです。
レベル5
最終的なゴールで、「デジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことができる」レベルです。

経済産業省が示す「『DX推進指標』とそのガイダンス」の定性指標を活用して、自社のレベルを把握しましょう。

定量指標

定量指標は各企業が設定します。たとえば3年後に達成したい指標に関する数値目標を立てて、進捗を管理します。定量指標は中間目標値でもあるので、明確に途中経過を把握できるように設定します。「いつまでに、なにを、どのように」を意識しながら、具体的に数値目標を決めます。

DX推進指標を活用してDXを進める手順

「DX推進指標」とそのガイダンスに示されているDX推進指標を活用して、実際にDXを進めるにはいくつかポイントを押さえておく必要があります。

自社の現時点でのDX進捗状況を確認する

まず上記に示した定性指標のレベルを確認しましょう。スタート段階でどれくらいのデジタル化が進められているのか、あるいは、まだなにも着手していないのか、現状を知ることで、どこから着手するのかも変わってきます。取り組みの優先順位を決めるためにも、現状把握が重要です。

DXを進める際の課題を洗い出す

システムの状況や業務プロセスなどを見直し、改善が必要な点、問題になっている点を明らかにしましょう。

このとき、現場で実際に作業を担う従業員の声を拾い上げることも重要です。ITリテラシーのレベルによってはデジタル化に抵抗感を持つ従業員も出てくるでしょう。そうした点も踏まえ、課題としてあげておくことで、つぎのアクションにおける「どのように進めるのが最適なのか」を考えるヒントになります。

ビジョンとロードマップを策定する

目指すべき企業の理想像を明確にし、いつまでになにを達成するのかを決めます。それをビジョン、ロードマップとして全社に共有します。

ビジョンはDX推進によって「どのような企業になりたいのか」という目標 です。目指す「あるべき姿」を思い描くことが重要です。企業理念にも通じるのがビジョンです。

ロードマップは、取り組む内容を時間軸で明確に示した計画書 です。

なにを、いつまでに、どのように達成するのかをわかりやすく示しておきます。

経営者、従業員がともにDXの必要性を認識し、自分ごととして取り組む体制と意識を構築する

経営者だけがDX推進に注力しても、現場が動かなければ意味がありません。また、それぞれの業務を改善することだけに意識が集中しても、全社的な改革にはなりません。

DXのビジョンとロードマップを策定し、共通の認識として取り組むことが必要です。

KPIの設定をし、PDCAを回しながらゴールを目指す

それぞれの取り組みにKPIを設定し、短期的に評価・修正を繰り返し、レベルアップを図ります。KPIの設定にあたっては、取り組みを実施する誰もが納得できる数値目標を設定することが大切です。取り組む前からムリだと感じる目標では挑戦する気持ちが高まりません。

ただし、KPIを設定したことで、取り組みの目的がKPIの目標数値を達成することだけに留まっては意味がありません。KPIはあくまでも中間目標です。そして、つぎのステップへとレベルアップするための定期的な評価であることを認識し、DXのビジョンやロードマップを意識しておきましょう。

ビジョンの策定、ロードマップの策定についてはつぎの記事をご覧ください。

DX成功へ導くためのビジョンとロードマップの策定方法

DX推進に関する詳細はつぎの記事をご覧ください。

DX推進・成功事例から実施のヒントを探る~国内・海外成功事例22選~

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義と導入時の課題、成功へのポイントについて

まとめ: DXで目指すゴールに到達するためには、現状の進捗度を把握することが重要

DX推進を加速させるのは重要なことです。「2025年の崖」問題を回避するためにも、すぐに取り組む課題は数多くあるでしょう。しかし、取り組みを加速させるためにも、 現状でどれくらいのレベルに達しているのか、どのようなレベルアップが必要なのかを理解しておかないと、方向性を誤る おそれがあります。

経済産業省が示している「DX推進指標」を基に、自社の進捗を把握することからはじめてはいかがでしょうか。そのうえで、改めて目指すゴールを明確にし、取り組みの優先順を決めて、ひとつひとつの課題をクリアしていくことが、達成までの近道だといえるでしょう。