ガバメントクラウドとは?自治体DX推進に不可欠な基盤への対応ロードマップ
デジタル社会形成の中核を担うガバメントクラウド。この国家的プラットフォームの導入によって自治体業務は根本的に変革されようとしています。2025年の標準化期限が迫る中、多くの自治体担当者は「具体的な準備をどう進めるべきか」「何から着手すべきか」と頭を悩ませています。
本記事では、ガバメントクラウドの基本概念から実践的な導入ステップまで、先行自治体の事例も交えながら、スムーズな移行に向けたロードマップを示していきます。
DXとクラウドの関係については、次の記事も参考にしてください。
目次
ガバメントクラウドとは―国策による自治体システム改革の全体像
ガバメントクラウドとは、デジタル庁が主導して整備・運用する政府共通のクラウド基盤です。単なるインフラ提供サービスではなく、行政デジタル化を加速させる国家戦略的プラットフォームとして位置づけられています。従来の縦割り行政で個別に最適化されてきたシステムから、横断的に連携する標準化されたシステムへの転換を促進するものです。
2021年9月のデジタル庁発足以降、2025年度末までに基幹17業務システムの標準化・共通化を目指す動きが本格化しています。この取り組みにより、自治体間の重複投資解消や運用コスト削減といった財政効果だけでなく、住民サービスの質的向上や災害時における業務継続性の強化も期待されています。
自治体クラウドとの違い
「自治体クラウド」という言葉との混同が見られますが、両者は明確に異なる概念です。自治体クラウドが複数の地方自治体間での情報システム共同利用の取り組みを指すのに対し、ガバメントクラウドは国が整備する全国統一の共通クラウド基盤を意味します。
もっとも重要な違いは標準化の度合いにあります。自治体クラウドでは各自治体グループの判断でシステムカスタマイズができるのに対し、ガバメントクラウドでは国が定める標準仕様に準拠することが求められます。この標準化こそがガバメントクラウドの本質であり、全国レベルでの行政サービス均質化と連携強化を可能にする核心部分です。
標準化対象となる17業務システムとは
ガバメントクラウドへの移行対象として指定されているのは、住民基本台帳や地方税、社会保障関連など基幹17業務のシステムです。これらは自治体業務の中核を担うシステムであり、住民サービスの根幹に直結しています。 具体的には、次の業務システムが含まれます。
住民情報 | 住民基本台帳、選挙人名簿管理 |
---|---|
税務 | 固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税 |
保健福祉 | 健康管理、就学 |
福祉・保険 | 国民健康保険、国民年金、障害者福祉、後期高齢者医療、介護保険、生活保護 |
子育て | 児童手当、児童扶養手当、子ども・子育て支援 |
これらのシステムが標準化されることで自治体間でのスムーズなデータ連携が実現し、転居時の手続き簡素化など住民の利便性向上に直結する変化が期待されています。また自治体職員の業務効率化や災害時のバックアップ体制強化にも貢献するでしょう。
ガバメントクラウド移行がもたらす本質的なメリット
ガバメントクラウドへの移行は単なる技術的な変更にとどまらず、自治体経営と住民サービスに多面的な価値をもたらします。具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。
財政負担軽減効果と具体的数値
多くの自治体では長年にわたり、基幹パッケージシステムを導入しながらも個別の業務要件に合わせた独自カスタマイズを重ねてきました。このアプローチは短期的には業務に適合した使い勝手をもたらすものの、長期的には保守コストの増大や更新時の追加費用という負担を生み出してきました。
総務省による試算では、ガバメントクラウドへの移行により自治体全体で一定の経費削減効果が期待されています。ただし、この効果は自治体の規模や導入形態によって異なり、小規模・中規模の自治体においては、従来のシステム運用コストが増加するケースも報告されているため、今後の運用形態や共同利用の進展によって効果が変動することが見込まれています。
業務効率化の具体的事例
標準化に先行して取り組んだ自治体からは、業務効率化やシステム運用の改善など、一定の成果が報告されています。たとえば、住民基本台帳システムの標準化によって証明書発行業務の処理時間が短縮された事例や、災害時のバックアップ体制が強化され、業務継続性が向上した事例があります。
特に注目すべきは、標準化されたAPIによるシステム間連携の円滑化です。これにより、従来は手作業で行われていたデータ移行や確認作業の自動化が進み、職員の作業負担軽減につながっています。複数システム間のデータ連携における作業時間が大幅に削減されたという報告もあり、こうした効率化によって職員がより付加価値の高い業務に注力できるようになることが期待されています。
住民サービス向上への道筋
ガバメントクラウドが目指す最終的なゴールは住民サービスの質的向上です。標準化されたシステム基盤の上に構築される新たなサービスにより、住民の行政手続き体験は大きく変わります。転入・転出手続きのワンストップ化や各種証明書のオンライン申請・即時発行など、住民の利便性向上に直結するサービスの実現が可能になります。
また、データの標準化は自治体間での情報連携を劇的に改善します。これにより、たとえば災害時の避難者情報や支援情報の共有が迅速化され、広域での効果的な行政サービス提供が実現します。
自治体における住民サービスの向上については、次の記事も参考にしてください。
2025年期限に向けた移行準備の具体的ステップ
ガバメントクラウドへの移行は2025年度末という明確な期限が設定されており、計画的かつ体系的な準備が不可欠です。どのような手順で進めればよいのでしょうか。
現行システムの徹底分析と棚卸し
移行の第一歩として取り組むべきは、現行システムの詳細な棚卸しと分析です。標準化対象となる17業務システムについて、現在のシステム構成、カスタマイズの状況、データ形式、契約内容などを詳細に把握することが必要です。
具体的には各システムについて次の点を整理します。現行システムの契約状況(契約期間、費用構造、保守内容など)、カスタマイズ内容とその必要性の評価、連携している他システムとの依存関係、使用している独自帳票の一覧などです。この分析を通じて、移行の優先順位や適切な移行方式(一括移行か段階的移行か)を判断する材料を得ることができます。
戦略的な移行計画の策定
現状分析に基づき、効果的な移行計画を策定します。ここでは単にシステム切り替えの日程だけでなく、包括的な計画が求められます。具体的には以下の要素を含める必要があります。
- 各システムの移行時期と順序の設定
- 必要予算の見積もりと確保のタイミング
- 職員向け研修プログラムのスケジュール
- 住民への周知計画
- 並行稼働期間の設定
- データ移行の方法と検証プロセス
特に重視すべきは既存システムの更新サイクルとの調整です。通常のシステム更新タイミングに合わせて標準準拠システムへ移行することで、二重投資を避け追加コストを最小限に抑えることができます。
利用可能な財政支援制度の活用
ガバメントクラウド移行には一定の初期投資が必要ですが、国は複数の財政支援制度を用意しています。デジタル基盤改革支援補助金や自治体DX推進計画に基づく特別交付税措置など、活用可能な支援策を最大限利用することが重要です。
2025年度までの移行を促進するため、国は令和6年度までの財政支援を手厚く設定しています。具体的には標準準拠システムへの移行経費の全額を国が負担するデジタル基盤改革支援補助金などが用意されています。さらに中小規模自治体向けには、複数自治体による共同調達・運用モデルへの支援も強化されています。
予算確保においては国の支援制度と自治体の予算サイクルを考慮した計画的な申請が重要です。
移行プロセスで直面する課題と効果的な解決策
ガバメントクラウドへの移行過程では、多くの自治体が共通の課題に直面します。先行事例から学んだ実践的な対処法を見ていきましょう。
カスタマイズからの脱却と業務プロセス改革
移行における最大の障壁となるのが、長年にわたって蓄積されてきたシステムカスタマイズの見直しです。標準仕様への適合を実現するためには、「システムを業務に合わせる」という従来の発想から「業務をシステムに合わせる」という発想の転換が求められます。
効果的なアプローチとしては次の手順が有効です。
- 現行カスタマイズの内容を機能別に整理・分類する。
- 標準仕様で代替可能な機能と不可能な機能を明確に区分する。
- 代替不可能な機能については業務プロセス自体の変更可能性を検討する。
- 必須の機能については、EUC(エンドユーザーコンピューティング)ツールなどで補完する方法を検討する。
データ移行の最適な戦略
データ移行はシステム移行プロジェクト全体の成否を左右する重要な工程です。特に注意を払うべきポイントとして以下が挙げられます。
- 移行前のデータクレンジングの徹底(整合性チェックと修正)
- 文字コードの統一(特に外字対応を含む)
- データ形式の変換精度の確認
- 履歴データの移行範囲の明確な定義
- 移行後の整合性検証方法の確立
職員の理解促進と円滑な移行への鍵
新システムへの移行プロジェクトの成功は、最終的に利用する職員の理解と協力なしには成し得ません。標準化への抵抗感を最小化し、円滑な移行を実現するためには体系的なアプローチが欠かせません。
効果的な推進策として、次のような活動が有効です。
- 早期からの情報共有と移行目的についての理解促進活動
- 業務部門を含めた横断的なプロジェクトチームの結成
- 段階的な研修プログラムの実施(概論理解→操作研修→実務演習の順で)
- 移行後のサポート体制構築(ヘルプデスク設置やマニュアル整備)
安全性確保のためのセキュリティ要件と対応方法
ガバメントクラウドへの移行において、情報セキュリティの確保は最重要課題の1つです。特に住民の個人情報を大量に扱う基幹業務システムには、万全のセキュリティ対策が求められます。
ガバメントクラウド接続の技術的要件
ガバメントクラウドへの接続には、「ガバメントクラウド接続要件」に準拠した環境構築が必須となります。既存のネットワーク環境の抜本的な見直しが必要になる場合も少なくありません。主な技術要件には以下が含まれます。
- インターネット接続と自治体専用ネットワーク(LGWAN)接続の適切な分離
- 厳格な多要素認証の導入
- 全通信経路における強固な暗号化の実装
- 端末のセキュリティ対策(EDRなどの導入)
- 包括的な監視・ログ管理体制の構築
セキュリティ運用体制の確立
技術的対策だけでなく、運用面でのセキュリティ確保も同様に重要です。特に標準準拠システムへの移行を機に、セキュリティポリシーの全面的な見直しが推奨されます。
効果的なセキュリティ運用体制として、次のような施策が挙げられます。
- 最新のクラウドセキュリティに対応したセキュリティポリシーの更新
- 具体的なインシデント対応手順の確立と訓練の実施
- 階層的な権限管理とアクセス制御の徹底
- 委託事業者との責任分界点の明確化と監査体制の構築
クラウドのセキュリティについてより詳しく知りたい方は、次の記事も参考にしてください。
先行自治体の成功事例から学ぶ実践知
すでにガバメントクラウドへの移行に着手している自治体の取り組みから、効果的な移行戦略と成功のポイントを学びましょう。
神戸市:大規模自治体におけるデータ連携基盤のクラウド移行と標準化の推進
神戸市は政令指定都市として唯一ガバメントクラウド先行事業に採択され、住民記録システムや基幹システムを横断するデータ連携基盤をAWS上のガバメントクラウド環境へ移行しました。 移行にあたっては、既存システムの課題や運用ノウハウを整理し、専門家チームや従来のベンダー、職員が一体となってプロジェクトを推進。システム間のデータ連携や運用体制の検証を通じて、大規模自治体のモデルケースとなる知見を蓄積しました。
盛岡市:基幹業務システムのクラウド化によるコスト削減とBCP強化
盛岡市は、住民記録や税情報などを管理する基幹システムの一部をAWS上のガバメントクラウドへ移行しました。移行プロジェクトは2021年9月に始まり、2023年1月から本稼働。現状と5年後を比較した費用対効果の検証を行い、全体コストの8%削減を実現。さらに、2つのアベイラビリティゾーンに本番環境を構築することで、災害時の事業継続性(BCP)も強化しました。 クラウド利用経験がなかった自治体として、他団体のモデルケースとなっています。
つくば市:クラウド活用による業務継続性・セキュリティ強化の実現
つくば市は、住民記録や税務などの基幹系システムをガバメントクラウド上に段階的に移行しました。移行に際しては、オンプレミス時代に課題だった災害対策やセキュリティ強化を重視し、複数拠点でのバックアップ体制を構築。さらに、クラウドネイティブなセキュリティ機能を活用することで、サイバー攻撃への対応力も向上しました。職員のテレワーク環境整備や業務継続計画(BCP)の強化にもつながり、先進的な自治体運営のモデルとなっています。
鯖江市:クラウド移行による運用負担軽減と住民サービス向上
鯖江市は、基幹業務システムのガバメントクラウド移行を通じて、システム運用・保守の負担軽減を実現しました。従来は市独自でサーバー管理や障害対応を行っていましたが、クラウド移行後は自動化された運用監視や障害対応体制が整い、IT担当職員の負担が大幅に減少。また、住民向けオンラインサービスの拡充や、システム障害時の迅速な復旧も可能となり、住民サービスの質向上に寄与しています。中小規模自治体のクラウド活用事例として注目されています。
標準化後の発展的活用と将来展望
ガバメントクラウドへの移行は決してゴールではなく、デジタル社会実現に向けたスタートラインです。標準化された基盤の上に、さらに発展的な活用が期待されています。
データ利活用による政策立案支援
標準化されたデータは、科学的根拠に基づく政策立案(EBPM: Evidence-Based Policy Making)や住民サービスの質的向上に大きく貢献します。以下のような先進的な活用シーンが各地で始まっています。
- 人口動態データと福祉サービス利用状況の相関分析による効果的な福祉政策の立案
- 税データと産業構造データの組み合わせによる地域経済分析と産業振興策の策定
- 複数自治体間のデータ比較・ベンチマーキングによる行政サービスの質の向上
AI・RPAとの連携による次世代行政サービス
標準化されたデータとAPI構造は、先進的なAI技術やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)との親和性が非常に高く、次世代の行政サービス実現のための強固な基盤となります。
注目すべき活用例として、AIチャットボットによる住民問い合わせ対応の24時間自動化、機械学習による予測分析を活用した先制的な行政サービスの提供、RPAによる定型業務の自動化と職員の創造的業務へのリソースシフトなどが挙げられます。
マイナンバーカードとの連携強化による住民体験の向上
ガバメントクラウドの標準化基盤は、マイナンバーカードを活用した住民サービス拡充の推進力となります。今後期待される連携強化の方向性としては以下のようなものがあります。
マイナポータルを活用したオンライン申請の対象拡大と手続きの簡素化、各種証明書のコンビニ交付サービスの全国的な普及、ワンスオンリー原則の徹底(一度提出した情報の再提出不要化)などが挙げられます。
標準化システムとマイナンバーカードの連携は、「デジタル社会形成基本法」が目指す「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を実現するための重要な基盤となります。
まとめ:自治体DX成功の鍵を握るガバメントクラウド対応
ガバメントクラウドへの移行は単なるシステム刷新ではなく、行政サービスの在り方を根本から見直す大きな変革の機会です。標準化対応を成功させるための重要ポイントをまとめます。
成功する標準化移行の7つのカギ
-
早期かつ計画的な推進体制の構築
移行プロジェクトの早期立ち上げと全庁的な推進体制の確立が不可欠です。部門横断的なプロジェクトチームの結成と明確な権限付与により、組織的な取り組みを可能にします。 -
徹底した業務棚卸しとカスタマイズの見直し
現行業務プロセスとカスタマイズ状況の詳細な棚卸しを行い、標準仕様への適合性を評価します。同時に業務プロセス自体の見直しも進め、標準機能への適合を図ります。 -
計画的な移行スケジュールの策定
既存システムの更新サイクルと標準化移行のタイミングを適切に調整し、段階的な移行計画を策定します。早期の検証環境構築で十分な移行テストと準備期間を確保することが重要です。 -
業務改革(BPR)と一体化した推進
標準化対応を単なるシステム更新ではなく、業務改革の好機と捉え、行政サービス全体の最適化を目指します。住民視点でのサービス改善を最優先課題として設定しましょう。 -
職員の理解促進と効果的な研修実施
移行の目的や意義について早期から情報共有を行い、職員の理解と協力を得ることが重要です。体系的な研修プログラムの実施により、新システムの円滑な導入を支援します。 -
データ移行の慎重な計画と検証
移行前のデータクレンジングの徹底と複数回の移行テストにより、本番移行時のリスクを最小化します。特に文字コードや外字の対応には注意が必要です。 -
将来を見据えた拡張性の確保
移行後の発展的活用を見据えた設計と準備が重要です。AI活用やデータ分析基盤など、次のステップを視野に入れた取り組みを計画しましょう。
ガバメントクラウドへの移行プロジェクトは、一見すると技術的なハードルや業務変革の困難さが目立ちますが、適切な準備と段階的なアプローチにより、行政のデジタル化と住民サービス向上という大きな成果をもたらします。
申請管理を核とした業務効率化
自治体DXの推進において、特に重要となるのが「申請管理」の効率化です。住民からの申請を受け付け、処理し、結果を通知するというプロセスは、自治体業務の中核を成しています。ガバメントクラウドの標準仕様に対応しながら、この申請管理プロセスを最適化することが、真の業務効率化と住民サービス向上の鍵となります。
NTTデータ関西では、ガバメントクラウドに対応し、標準仕様に基づき自動連携を実現する「申請管理システム」を提供しています。このシステムは標準仕様に準拠し、自治体の業務プロセスに柔軟に対応できる設計となっています。特に以下の点で優れた効果を発揮します。
- 標準化対象17業務との連携による二重入力の解消
- 申請状況の可視化による進捗管理
- マイナポータル連携による住民のオンライン申請体験向上
- データ分析機能による業務改善のPDCAサイクル支援
ガバメントクラウド移行をスムーズに進めながら、業務効率化と住民サービス向上を同時に目指す自治体に適したソリューションです。
NTTデータ関西が提供する電子申請サービス「e-TUMO」もマイナンバーカードを活用した本人確認をよりスムーズに行えるようになりました。
電子申請サービス「e-TUMO」の本人確認とログインがスムーズに
~行政からのデジタル通知にも対応し、住民サービス向上と自治体業務を効率化~