災害に関する多様な情報を一元管理。
リアルタイムで関係者が共有し、
素早い指示と行動が可能に
約150万の人口を擁する日本屈指の都市、神戸市。
瀬戸内に面したこの穏やかな港町は、海と山が市街地に隣接する独特の街並みを形成しています。そのため、大雨に見舞われれば、風水害や土砂災害のリスクが高まることになります。また、都心部から山間部まで多様な暮らしが営まれているため、災害の種類も多種多様となることが予測されています。
課題
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- 風水害監視や情報集約が煩雑化しており、関係部局とリアルタイムでの共有ができない
- 機械学習が自動化されており、高精度な分析手法を短時間で生成することはEYE-BOUSAIの大きな特徴。
約半年間かけてチューニングしていた分析モデルを、EYE-BOUSAIはわずか1クリックで生成した。
【情報監視課題】
旧システムでは、気象情報や観測情報、防災指令情報、被害情報、避難所情報など、それぞれの業務システムや気象庁などの各情報サイトを個別監視していました。
【情報共有課題】
複数のExcelベースのサブシステムが散在しており、避難所の運営情報などは各区でとりまとめて、電話やFAX等での情報共有のため、分断されたシステムや業務間を各職員が整理・集約することに負担が大きく、本来の応急対策活動業務を阻害する状況でした。
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- 現場や関係部局への指示、市民への情報発信を迅速に行いたい
- 住民への情報配信について、メールやSNS、公開ホームページ、Yahoo!防災速報アプリなど複数の配信媒体へそれぞれの担当者が配信時刻前に文面登録・待機し、個別配信を行っているため、迅速性と確実性に課題があった。
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- システム利用環境や操作性・視認性課題
- 旧システムは活用度が低く、ホワイトボードや白地図での運用実態となっていた。
また、旧システムは、Excelベースの各サブシステムからExcelをダウンロードして登録するという操作性の問題や、報告様式テンプレートの操作性問題、登録したExcelの自動集計結果を閲覧するというシステム仕様の難解さや煩雑さに問題があった。
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- システム稼働後の運用コストや維持メンテナンス課題
- 旧システムでは、6つのサブシステムごとに構築・運用業者がバラバラで、稼働後の法改正や制度変更、本市の運用変更などに伴い、都度・システムごとに追加費用が発生しており、それぞれの関連システム業者の調整を職員が担っていた。
障害等の不具合発生時には、どのサブシステムや業者での不具合かの確認が難しく、安定稼働に向けたコストやメンテナンス業務負荷も大きかった。
効果
システム上に情報が集約。リアルタイムでの情報共有が可能に
- 災害現場や避難所、消防局や建設局など関係部局からもたらされる情報はすべてEYE-BOUSAI上に自動集約され、関係者が常に各情報サイトの監視負荷が軽減され、誰もが同じ情報をリアルタイムで把握できるようになった。災害対策本部から関係部局への指示もシステム上で行えるため、迅速で正確な指揮系統が確立された。
- 一括入力で複数の情報発信が可能に。担当人員を3人から1人に削減
- 「兵庫防災ネット」や「Yahoo!防災」、各SNS配信など、市民が登録する防災情報のチャネルに対して、EYE-BOUSAIから一括して情報発信が可能になった。配信時刻は事前に設定することも可能。従来は配信媒体や配信時刻ごとに人員を配置していたが、1人ですべての配信が行えるようになった。
- SNS住民投稿情報を自動収集し、AI解析・分析により、早期の対応が可能に
- 市民が日常的に発信している各種SNSの情報をAIが分析し、災害に関する情報を抽出してEYE-BOUSAI上に取り込んでいく機能を追加。市民の「集合知」を用いることで、局地的な豪雨や道路被害など従来の情報網では察知しにくい情報にいち早くアクセスし、対応を行うことが可能になった。
- 成長型システムであり、システム稼働後の運用コスト低減と継続的なバージョンアップ
- 導入後も毎年バージョンアップを実施しており、災害対策基本法などの法制度改正への対応や実災害および訓練等での要望対応を運用保守サポート内で実施されるため、運用維持コスト低減と安定かつ継続的なシステム運用が可能になった。
EYE-BOUSAIを導入した背景と目的は?
- 吉見氏
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災害時に非常に大切になるのは、正確で迅速な情報収集です。また、収集した情報を素早く関係機関で共有することも重要です。
消防局をはじめとした関係部局から災害対策本部への情報伝達という面では、エクセルなどを使った仕組みが用いられていました。
しかし、入力しては書き出し、それを別のシステムに入れ直すなどといった煩雑な作業が必要で、必ずしもスピーディーな仕組みとは言えませんでした。その他には電話とファックスが主な伝達手段でした。
災害発生時には状況が刻々と変化していきますから、五月雨式にいろいろなところから情報がやって来るという状況でした。災害対策本部の中では、それらを地図上に記入したり、ホワイトボードに記入したり壁に貼り出したりするという、非常にアナログな方法で情報共有を行っていました。災害対策本部内がこのような状況ですから、他の関係部局との情報共有はさらに手間取っていました。
これらの状況を改善し、「すべての情報が1つのシステムに集約される」「システム上で誰もがリアルタイムの情報を共有できる」という仕組みの構築を目指しました。 - 山田氏
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集まった情報の「その後」も大変でした。
現場などから情報はどんどん寄せられますから、壁もホワイトボードもすぐにスペースがなくなってしまいます。古い情報は消さざるを得ないのですが、記録として保管する必要もあります。そこで、写真撮影をして保管するという方法を取っていました。この作業自体が手間ですし、撮影したデータの管理という手間も発生します。それらの改善も目指していました。 - 吉見氏
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システムの選定にあたって重視したのは、やはり災害への強さです。
災害時には、庁舎が被災してシステムが使えなくなることも想定されます。そこで、インターネットさえつながれば場所を選ばず使用することがきる、クラウド型のシステムを条件としました。
災害に関する法令や制度などは時代に応じて変わっていきます。オリジナルのシステムの場合、法改正などのたびにシステムの改修も必要になります。その点、パッケージのシステムであれば、その対応はベンダー側が行ってくれます。また、災害対策に関する課題やニーズは全国の自治体で共通している部分も多いです。パッケージシステムの場合、ベンダーがそれらを取り入れてアップデートしていってくれるというメリットもあります。そこで、「成長型」のシステムであることも重要な条件となりました。もちろん、直感的に操作できることや画面の見やすさなども欠かすことのできない条件です。
これらの条件にマッチするのが、EYE-BOUSAIでした。
EYE-BOUSAIを導入後、どのような効果が現れましたか?
- 吉見氏
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幸いにも導入後、対策本部を設置するほどの災害は発生していません。しかし、大雨などによる小規模な事案は発生しています。それらを通して効果を感じる場面は数多くあります。
まず、情報の1か所への集約、関係部局とのリアルタイムでの情報共有という点では非常に満足しています。例えば道路被害が発生して建設局の職員が現場に赴いたとします。職員はスマートフォンで現場を撮影してシステムに写真をアップロードすれば、その情報は瞬時に私たち危機管理室をはじめ、関係部局においても確認できます。私たちはその情報をもとにして状況の判断を行い、必要な指示をシステム上で送ることができます。指示もまた、リアルタイムで全員に共有されるのです。 - 山田氏
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関係部局では、システムに上がった情報の中から、自分たちに関係のある情報にフラグを立てて表示することができるようになっています。つまり、危機管理室からの連絡を待つことなく状況を把握でき、独自に対応を始めることができるのです。
現場が行った対応もすべてシステムに入力されていきます。「クロノロジー」と呼ばれる被害状況に関する事案の発生から対応完了までの一連の情報を記録する仕組みは、変化する災害現場での状況の素早い共有という点で、非常に効果的だと感じています。 - 吉見氏
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災害には至らないまでも大雨が降った際などには、100~200件の通報が市民などから寄せられます。
EYE-BOUSAIのいいところは、それらの情報を蓄積し、分析してくれるところです。災害が起こりやすい場所や気象条件などをシステムが読み解き、早めの避難情報などに結びつけることができます。従来から情報の分析は行っていましたが、手作業ではどうしてもスピードや精度に限界がありました。
劇的に変化したのは、市民への情報発信です。
避難情報などの提供にあたっては、「兵庫防災ネット」や「Yahoo!防災」など、市民が登録したシステムを通じてメールが送られる仕組みがあります。これまでは、それぞれのチャネルに対して情報を入力する必要がありました。配信時刻の指定ができないため、所定の時刻に合わせて人員を配置しておく必要もありました。それがEYE-BOUSAIでは、一度の入力で複数のチャネルに自動配信してくれます。配信時刻の設定も可能なので、「配信要員」がスタンバイしておく必要もなくなりました。
システムに任せられるところは任せてしまい、その分、職員は状況判断や戦略の立案など、人間にしかできない業務に注力する。そういった「メリハリのある災害対策」が可能になっているように思います。 - 山田氏
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EYE-BOUSAIは2019年に導入しました。2021年には機能の拡張として、SNS上の情報をAIが分析し、システムに取り込む機能を追加しました。
大雨や土砂崩れなどの災害は、これまでの場合、市民から市役所や消防署に寄せられる通報が第一報となることが多かったです。これは、通報がないと私たち危機管理室は災害に気付くことができないという意味にもなります。それに対してSNSでは、市役所などへの通報とは関係なく、災害に関する写真などの投稿が数多くされています。これをAIがキャッチし、私たちに知らせてくれるのです。その結果、災害の「端緒」をより早くつかむことができ、備えることができます。この仕組みは、2022年度から運用を開始しました。SNSユーザーの集合知による備えに、私たちも大きな期待を寄せています。
今後の課題・目標は?
- 吉見氏
現在、消防署などが行う救助訓練でEYE-BOUSAIを運用し、実際の災害時にスムーズに活用できるように訓練を行っています。施設で行った避難訓練でも、施設職員にスマートフォンで現地の状況を送ってもらいながら、EYE-BOUSAIを使って現地と危機管理室や関係部局との連携を確認しました。これからも様々な訓練を重ね、いざというときに落ち着いてシステムを利用できるよう、備えていきたいです。
危機管理室では、市民への情報伝達手段の1つである防災行政無線の運用も行っています。メール配信がEYE-BOUSAIで一元化できたように、防災無線もEYE-BOUSAIと連動できればと考えています。システム上に放送内容を入力しておき、所定の時間になると自動的に読み上げて放送するという仕組みを目指したいです。
災害対策だけでなく、ICTの活用による業務の効率化や質の向上は神戸市全体が取り組んでいる大きなテーマです。事業者との連携を深めながらICTを有効に利活用し、防災力・災害対応力の底上げを図ることが、私たち危機管理室の目標です。