即時性と網羅性を備えた情報収集が可能に。
長野県の防災情報システムとの連携により、
迅速で効率的な情報伝達も実現。
八ヶ岳や白樺湖、蓼科高原などの豊かな自然と観光資源で人気を集める長野県茅野市。茅野市に恵みをもたらす自然環境は時として、河川の氾濫など災害を招く要因になることもあります。人口が55,000人あまりという茅野市にとって、万一の災害の際には県からの支援は不可欠です。
災害時に地域の状況を迅速に把握し、県との連携を強化することをめざして、茅野市様はNTTデータ関西の総合防災情報システム「EYE-BOUSAI」を導入しました。
課題
電話やホワイトボードによる被害状況の把握では、迅速かつ適切な対応に限界がある。
県のシステムに災害内容や被害状況などの情報を入力するために膨大な手間がかかっていた。
災害内容や被害状況などの現場からの報告を収集・集約、整理する作業に時間に追われ、重要性の判別や各部署への指示といった本来の業務に時間が取れなかった。
効果
リアルタイムで関係各所の情報を把握。迅速な判断・指示が可能に
- 対策本部への情報伝達は、EYE-BOUSAIに一本化された。職員・担当者が発信する情報がすべてEYE-BOUSAI上に集約されるため、対策本部は網羅的かつリアルタイムで災害の状況を把握することが可能に。多くの情報を素早く得ることにより、判断や指示の精度とスピードが向上した。
各部署が自律的に判断・行動するように
- EYE-BOUSAIに入力された情報は、避難所の開設を指揮する部署やインフラの安全を確保する部署など、関係部署と共有されている。それぞれの部署はEYE-BOUSAI上の情報を見て、自律的に対策の必要性を判断し、行動できるようになった。判断・行動の情報はEYE-BOUSAIに入力されるため、対策本部は各部署のアクションを確認し、必要に応じて指示を送るだけで済むようになった。
県のシステムへ情報を入力する作業が圧倒的に効率化
- 現場の担当者がEYE-BOUSAIに入力した情報を対策本部の職員が確認し、「県に報告する」というチェック欄にチェックを入れるだけで情報が県のシステムに入力されるようになった。複数の対策本部の職員が手作業で県のシステムに入力していた従来の業務フローと比較すると、格段の効率化が可能になった。
EYE-BOUSAIを導入する狙いは?
- 増澤氏
以前は、マップやホワイトボードに付箋を貼って状況を把握するという、昔ながらの方法を行っていました。現場からの情報伝達は、基本的に電話です。聞き取った内容を対策本部の職員が記録用紙に書き留め、その後エクセルに入力。そして、クロノロジー(時系列に記録する手法)に入力するという流れでした。
- 増澤氏
この方法には、ある意味で「声の大きい人の情報が重要な情報になる」という問題点がありました。本当は重要な情報なのに、付箋が1枚ひっそりと貼られているだけということもあったのです。付箋がはがれ落ちてしまったら、その情報はもはや誰にも認識されなくなるという問題もありました。
- 増澤氏
「対応が終わった事案」の扱いにも課題がありました。当時の業務の仕組みでは、対応が終わった事案の情報はホワイトボードからはずすことになっていました。このとき、同じ事案に関する別の情報が、遅れて届いたとします。すると、実は同一の事案であるにも関わらず、「新しい事案」としてホワイトボードに情報が乗せられるのです。結果、改めて対応が始まります。対応している途中で同じ事案だと気づくのですが、緊急時に生じるそういった時間のロスは大きな課題でした。
- 増澤氏
新システムを導入するにあたって考えていたのは、現場からの情報を網羅できることと、リアルタイムで関係者が情報を共有できることです。そうすることで、重要度の高いものから優先して対処できると考えたからです。
もう1つ重視したのは、県のシステムとの連携です。災害内容や被害状況など現場から届いた状況は、対策本部の職員が県システムのクロノロジーに入力することで報告を行っていました。この作業が非常に負担になり、報告が遅れて漏れた場合は電話がくるという負の連鎖でした。県のシステムと連携することで作業の効率化を目指しました。
EYE-BOUSAIを導入後、どのような効果が現れましたか?
- 笠原氏
あらゆる情報が、常にEYE-BOUSAIへと入ってきます。EYE-BOUSAIを見ていれば情報の見落としが起こりませんので、非常に助かっています。「付箋がはがれ落ちて、情報を見逃してしまった」ということも起こり得ません。
- 笠原氏
存分に力を発揮してくれているのが、県へ報告を行う場面です。この業務を担当する対策本部の職員は、EYE-BOUSAIに入力されている情報を見て、報告する必要があるものとないものを選別し、「報告する」というチェックを入れるだけで済むようになりました。「業務効率の向上」という点で、効果は計り知れません。
- 笠原氏
対策本部が、状況の判断や関係部署への指示、部署間の橋渡しといった、本来の業務に集中できるようになりました。
以前は、現場からの報告を聞き取ったり、それを整理したり集約したりという、周辺の業務に忙殺されていたのです。そういった業務をEYE-BOUSAIが担ってくれるといえるので、職員は画面を眺めているだけで適切な情報にアクセスできます。その結果、重要性の判別や指示といった業務に集中しやすくなったのです。対策本部がコーディネーターとしての役割を発揮しやすくなったといえます。- 笠原氏
EYE-BOUSAI上の情報は関係部署や機関と共有されています。EYE-BOUSAIに表示される災害状況などを見ながらそれぞれの部署が、「この状況には、自分たちが対応しなければいけない」と自ら判断して行動するようになりました。
対応をしたという情報はEYE-BOUSAIに入力されます。担当部署がEYE-BOUSAI上の情報を見て適切に判断・行動しているならば、極端な言い方をすれば対策本部は何もしなくていいのです。もちろん常に状況を見つめ、必要に応じて指示を出していますが、それぐらいスムーズな対応が可能になったと言え、より多くの人材を緊急性の高い部門に配置することが可能になりました。- 増澤氏
遅れて対策本部に参集した職員に対してもEYE-BOUSAIは力を発揮しています。すべての情報がEYE-BOUSAI上に入力されているため、EYE-BOUSAIを見るだけで自分が対策本部に到着するまでの状況を把握することができるのです。以前はエクセルデータを開いたり書類を読み返したりしていましたが、その手間は不要になりました。
今後の課題・目標は?
- 笠原氏
EYE-BOUSAIを導入した令和3年の9月に、茅野市は土石流災害に見舞われました。このとき、EYE-BOUSAIの効果を実感するとともに、課題が必要な点も浮かび上がりました。そのなかの1つが、EYE-BOUSAIに入力する際の言葉や文章です。
日頃からの習性のようなものなのですが、私たち市の職員は丁寧な言葉や難しい言葉を使いがちです。いわゆる「お役所言葉」です。しかし、災害時に求められるのは簡潔で明瞭な報告です。
そこでEYE-BOUSAIに入力する際の書き方や用語を定め、周知を行っています。次の災害時に職員が使いこなせるよう、今後も研修が大切になると考えています。- 増澤氏
災害時には市から県に対して支援を要請します。このとき、「こんなことで支援をお願いしていいのだろうか」「これぐらいは市で解決すべきなのだろうか」というためらいが生まれることがあります。これは人の心理として自然なことです。しかし、ためらった結果、支援の遅れが生じることもあります。
そこで私たちは、「ためらわずに、情報はどんどん県に届けよう」と呼びかけています。より多くの情報を届け、支援の有無に関する判断は県にしてもらうぐらいの気持ちでいます。前述の書き方と同様に、研修などで周知徹底することが課題です。- 増澤氏
茅野市がEYE-BOUSAIに入力した情報は県のシステムに反映されていきますが、県が入力した情報を市のEYE-BOUSAIで見ることはできません。市から県へという一方通行なのです。これが双方向になるとありがたいです。現状では県のシステムを開いて状況を確認するという手間がかかっていますが、双方向になることで、すべての確認が市のシステム上でできるようになるはずです。
※本文中表記のお客様の部署名・ご担当者などの諸情報は、取材当時のものです。