迅速に正確な情報の集約と発信を実現。
高精細画像データなどを活用し、
災害時情報システムのさらなる高度化に取り組む。
道後温泉や柑橘類に代表されるように、豊かな観光資源や農林水産資源に恵まれる愛媛県。瀬戸内海に面した穏やかな気候の地域という表情を持つ一方で、宇和海に面する南予地域を中心に、降水量が多いという別の表情も持ちます。気候風土が多様で都市部から山間部、島しょ部など地域性も大きく異なるなか、災害発生時には迅速で正確な情報収集が欠かせません。
そこで愛媛県は、NTTデータ関西の総合防災情報システム「EYE-BOUSAI」を導入しています。
課題
伝達方法が電話・ファックス・メールで、県の関係部署や県下20市町から県の災害対策本部へ伝える情報の報告様式が一元化されておらず、情報の収集・整理作業に労力がかかっていた。
リアルタイムで情報を共有することが困難で、集まった情報の集約にも時間がかかっていた。
情報が錯綜することで、マスコミへの情報の提供に時間を要していた。
効果
情報収集が一元化され、集約やとりまとめに手間がなくなり正確になった。
- 被災地の市町から県の災害対策本部に届く情報の経路は、EYE-BOUSAIに一元化された。複数のチャネルを確認したり、そこに記載された情報を転記したり集計したりという手間がなくなったほか、転記に伴う入力ミスも発生しなくなった結果、情報の収集と分析のスピード、正確性が圧倒的に向上。それに伴って、迅速な意思決定も可能になった。
誰もがリアルタイムで情報を共有・把握できるようになった。
- 被害情報のほか、避難発令情報や避難所の開設状況など、刻々と変化する情報は、随時EYE-BOUSAIに入力される。そのため、「画面さえ見れば、どこにいても最新の情報にアクセスできる」という環境が実現した。県が運用するEYE-BOUSAIは県内の市町も利用できるため、各市町は近隣地域の状況を随時把握し、備えを強化したり連携を図ったりすることが可能になった。
Lアラート等を活用し、報道機関や住民へ迅速に情報を発信できるようになった。
- 住民への情報発信の方法の1つとして、報道機関との連携は欠かせない。県がEYE-BOUSAIに避難発令情報や避難所開設状況などの情報を入力することで自動的にLアラートに連携される。そのLアラートの情報が報道機関各社に一斉に伝達され、住民に向けた情報を迅速に発信できるようになった。このほか、EYE-BOUSAIの情報一括配信機能により、愛媛県防災メール(登録制メール)やえひめの防災・危機管理(愛媛県防災ポータルサイト)など多様な媒体を通じて、住民向けの情報発信が円滑にできるようになった。
EYE-BOUSAIを導入する狙いは?
- 岡田氏
災害の発生時には、被災地の市町をはじめとした関係機関から県の対策本部に対して、さまざまな情報が届けられます。伝達方法は電話、ファックス、メールが中心であり、情報の報告様式が統一されていませんでした。いろいろなチャネルから様式がバラバラの情報が集まってくるのです。それらを取りまとめ、被害状況等の数値を集計するという作業に非常に大きな労力がかかっていました。
結果、国などへの支援要請を行うといった判断や、マスコミに対する住民向けの情報発信に時間がかかるという状況でした。- 石丸氏
災害時において県が担う大きな役割は、市町からの現場の被害情報や避難所開設等の情報を集約し、国や住民に伝えることと、国などへ支援要請を行うことです。このプロセスをいかに素早く正確に実施するかということは、大きな課題でした。
当時の状況について説明をします。例えば午前8時30分に災害が発生し、9時に対策本部を立ち上げたとします。しかし、この短時間では情報の十分な収集・整理が難しい状況でした。「10時に行われる次の会議までに情報の整理を」と決まっても、もともと入ってきていた情報の整理に加え、新たに入ってくる情報の整理にも追われ、10時の会議にも十分な報告が行えませんでした。
「適切な判断をしたい」、「正しい情報を県民に迅速に届けたい」と思っても、なかなか思うに任せない状況だったのです。- 岡田氏
本県では平成16年の台風21号で、大きな被害を経験しました。この時、情報収集や分析、発信の迅速性に課題を感じるようになりました。その後、全国各地で大規模災害が頻発する状況を受け、情報システム導入の必要性を考え、平成28年のEYE-BOUSAI導入に至りました。
EYE-BOUSAIを導入後、どのような効果が現れましたか?
- 岡田氏
県へ届く情報の経路がEYE-BOUSAIに一元化されました。その結果、複数の経路から届いた情報を集約したり、転記したりという手間がなくなりました。転記にともなう入力ミスも起こらないので、情報の正確性も増しました。
- 石丸氏
被災地の担当者が入力した情報を、私たち県の担当者は即座に把握することができます。さらに、被災地以外の市町の防災担当者も同じ情報をリアルタイムで見ることができます。リアルタイム性や情報共有の容易さはEYE-BOUSAIならではですね。
入力される情報には画像や位置情報も含まれています。また、これまでは職員が手計算で集計していた被害状況の数値情報も、EYE-BOUSAIは自動で計算してくれます。よりわかりやすく、より素早く情報を把握できるようになりました。- 岡田氏
報道機関との連携も非常にスムーズになりました。被害状況や避難所の開設状況など、報道機関を通じて住民へ広く発表したい情報は、EYE-BOUSAIに入力することでLアラートを通じて報道機関各社に一斉に伝達されます。
以前は、報道機関に対して伝達の場を別途設けたり、問い合わせに対して個別に応えたりすることで情報を伝えていました。災害時には住民への迅速かつ正確な情報発信は非常に重要である一方、報道機関対応のほかにも多くの業務があります。そういった悩ましい状況を、EYE-BOUSAIを用いた情報伝達の仕組みが解決してくれたのです。
EYE-BOUSAIに関する現在の取り組みは?
- 石丸氏
愛媛県は平成30年7月豪雨によって甚大な被害を受けました。このときはすでにEYE-BOUSAIを運用しており、先に述べたような効果を実際の災害で経験することができました。一方で、当時の仕組みが抱えていた課題も浮き彫りになりました。現在、それらの課題解決に向けた各種の取り組みを行い、EYE-BOUSAIの高度化を図っているところです。
- 岡田氏
災害時の情報収集にはヘリコプターが大きな力を発揮します。ところが平成30年7月豪雨では、発災日は雨のためにヘリコプターを飛ばすことができませんでした。翌日も満を持してヘリコプターは飛び立ちましたが、今度は霧のため上空から被災地を十分とらえることはできませんでした。この苦い経験を受けて、雨や霧でも地上をとらえることができる、人工衛星が撮影した画像の活用や赤外線を使った画像分析の仕組みをEYE-BOUSAIと連携させる取り組みを行っています。
- 石丸氏
地域住民がSNSに投稿する情報をEYE-BOUSAIに取り込み、情報収集や状況判断に活かす仕組みの構築も進めています。災害時には、市町や警察・消防署などの職員だけでは十分な情報を集められないことや、業務に追われて情報の伝達が滞ってしまうこともあり得ます。SNSを活用すれば、より多くの人から情報収集や伝達への協力を得ることができ、正確で迅速な状況把握と判断に役立ちます。
- 芝氏
令和4年秋から、災害時に高精細な画像を高速で伝達し、迅速な情報共有や意思決定を実現するため、総務省の実証実験を行いました(参考プレスリリース:令和4年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」)。その実証フィールドとなったのが本県です。
被災地の状況把握には、ドローンの活用が期待されています。災害は都心部だけなく、山間部や離島、島しょ部などでも起こります。このとき、ドローンがとらえた情報を県の対策本部がある都心部へ迅速に届ける必要があります。そこで、臨時の基地局と中継装置を用いて電波のカバーエリアを拡張し、ドローンの空撮映像を伝送する「ローカル5G」という仕組みが提唱されています。この実証実験を、本県で実施したのです。- 岡田氏
実証実験では、被害状況を4Kの高精細映像カメラで撮影することで被災状況の分析精度を高める取り組みも行っています。画像が高精細になるとデータ容量も大きくなるので、ここでもローカル5Gの重要度は高まります。高精細な画像をもとにして、被災した現場の3Dマップを瞬時に作成することにも取り組みました。あらかじめ作成しておいた被災前の3Dマップと比較すれば、現地で測量することなく被災場所の面積や高さなどを把握することも可能になります。
これらの実証実験を行っている技術は実験後の検証を経て、有用性の高いものから順次、EYE-BOUSAIに本格的に実装していきたいと考えています。
このほかには、カーナビの情報をEYE-BOUSAIに取り込むという仕組みの構築も進めています。災害で道路が寸断された場所では、車の行き来が止まります。その様子はカーナビに反映されます。これをEYE-BOUSAIがキャッチすれば、道路の被災状況を把握できるのです。
今後の課題・目標は?
- 岡田氏
まずはEYE-BOUSAIの操作に関する習熟度を職員全体でさらに底上げすることです。これは平成30年7月豪雨を経験して顕在化したテーマです。災害時には、対策本部の職員だけでなく他部署の職員もEYE-BOUSAIを操作します。そのときに備えて、県庁全体、さらにいえば市町の職員も含めてもっと習熟度を高める必要があります。
EYE-BOUSAIの連携にあたっては、映像を共有できる仕組みを構築したいです。被害状況の詳細な情報がなくても、現地の映像を見れば「これはまずい。被害者が多数なのは間違いない。ならば自分たちは何をすべきか」と、それぞれの機関が自立的に考え、行動を起こすことができます。映像にはそういった力があるのです。- 芝氏
EYE-BOUSAIを平時でも使える機能を盛り込んでいきたいです。土木関係や農林関係の出先機関は、日頃から道路や山林の様子などを写真に撮り、県庁に報告しています。
写真は枚数が増えるとデータ容量が大きくなり、メールで送ることは難しくなります。結果、わざわざ県庁まで足を運んでDVDなどを届ける必要があるのです。EYE-BOUSAIの高度化により、大容量の映像・画像データの共有を実現し、そういった手間を削減できるようにしたいです。
※本文中表記のお客様の部署名・ご担当者などの諸情報は、取材当時のものです。