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金融業界に新たなビジネスモデル創出とデータドリブン経営を実現するためにもDXは必要

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さまざまな企業や各地の自治体、組織において、業務プロセスを見直し、デジタル対応できる体制へと移行し、新たな価値観創出、そして社会や人びとの暮らしをより快適にするためにもDXは必要とされています。その認識のもと、多くの企業や自治体、組織がDXを進めています。では、古くから企業や社会、人びとの暮らしに深く関わってきた金融業界ではどのような動きが起きているのでしょうか。今回は金融業界に焦点をしぼり、その歩みとDXの必要性を見ていきましょう。

金融業界の歩みと情勢の変化

金融業界が今、抱えている課題とそれに対する有効な対策を考えるために、まずは金融業界の戦後の歩みと現状を大まかに確認しておきましょう。

国家運営の要でもあった金融ビジネスの歩み

金融業界の歩みは、国家の政策に深く関わってきたといえます。なぜなら、金融は経済活動の基本であり、資金の流通なくしては、暮らしも社会経済も成立しないからです。

徹底した監視と規制によって安定的に成長することを優先
そのため、資金の循環が滞ることのないように、また、安定した国(社会)の成長が維持できるように、日本政府は金融ビジネスを細かく監視するとともに、いくつもの規制や指導を実施し、金融ビジネスをコントロールしてきました。
日本政府が金融業界に期待してきたことは、銀行中心の金融システムの推進であったといえるでしょう。実際に、銀行と証券の業務の分離、金利規制の実施、郵貯資金を活用した政府系金融機関の支援強化などが積極的に進められてきました。
お金の流れを見ていくと、日本の金融機関は、預金や投資という形で国民から集めた資金を、低金利で企業に融資しています。
これは企業の成長を支援するためのもので、銀行を中心とした融資を主事業とすることを、政府が推奨したという背景があります。
また同時に、政府は、金融業界が安定的に維持されるように、どの銀行も同じような歩みを維持するように規制を設けました。
こうした国主導の金融ビジネスの歩みは、高度経済成長を支え、戦後の日本の急速な進展を促していきました。
グローバル化による巨大システムの導入
その一方で、社債や株式の発行が金融業界の自主規制で制限されるといったような、一律の業界維持の取り組みは、直接金融の成長を遅らせることにもなり、さらには、企業にとっても銀行からの融資に頼るしか資金調達の道がないといったような状況を生み出しました。
こうした状況が、グローバル化により世界市場と競争をしなければならなくなった企業にとっては、大きな足かせとなりました。
1980年代に入り、日本において金融自由化が始まります。大企業は、国内外の金融市場から低コストで資金調達をするようになりました。また日本の証券会社や銀行においても、グローバル市場での仕事に関わることが増えていきました。
その結果、日本の金融業界は、世界の企業が金融機関に期待している役割を自覚することで金融機関としてのあり方や取引の仕方、商品開発の方向性などを知ることになり、 世界市場で認められる競争力のある金融機関になるためのノウハウや商品開発力を高めることに力を注ぐ ようになりました。
そうした変化にともない、 金融機関の多くが巨大システムを導入し、業務の効率化を図りました。
当時最新であったシステムがレガシー化
1980年代に多くの金融機関(銀行)で導入されたシステムはその後、大規模化、複雑化していきました。そのため、業務の属人化、メンテナンスや改修に対するコスト増大といった状況を招き、新しい変化に対応しにくくなってきました。
しかし、金融業界においては、個人情報や資産情報を管理するといった業務の特質上、顧客からの信用は絶対に守らなければなりません。そのためには万全なセキュリティ対策を施し、顧客の情報を安全に守ることが絶対条件であるともいえます。いいかえれば、現状のシステムをおいそれと変更することができないという状況にあるのです。

金融業界を取り巻く情勢の変化

次に金融業界を取り巻く社会情勢の変化を確認しておきましょう。

顧客の減少
日本の金融業界は、どの銀行も同様に政府の監視と規制のもと、船団が進むように足並みをそろえて発展してきました。その体制に変化がでてきたのは1990年代に実施されてきた規制緩和です。
この緩和をきっかけに、業界各社が独自にサービスを設定し、業界内での競争が促されるようになりました。金融ビッグバンとよばれる状況です。それ以降、横並びの意識が強かった業界に競争意識が生まれ、多様なサービスや金融商品が提供される業界へと変化していきました。
こうした社会情勢が右肩上がりで進展してきた時期に、競争力と組織力を拡大した金融業界は、安定した発展を示してきました。
ところが、融資先となる企業の業績に陰りが見え、企業数が減少傾向にある現在は、資金需要が減り続けるという状態が続いています。
総務省の示すデータによると、2016年に3,856,457社あった企業等数は、2021年には3,684,049社となり、172,408社減少しています。
マイナス金利政策
日本銀行は、2016年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定しました。これは金融機関が保有する日本銀行当座預金の一部にマイナス金利を適用するというものです。
目的は、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること、と日銀は発表しています。
ここで銀行と日本銀行との関係を少しおさらいしておきましょう。
各銀行は、日本銀行に当座預金の口座をもっています。そして、法律で定められた準備預金を預けています。銀行から日本銀行に預けられた預金に対しては、金利が付けられます。この日本銀行の設定する金利が市場における多くの金利の目安となっています。
現在、日本銀行が行っている「マイナス金利政策」は、この銀行が預けている準備預金に付けられる金利をマイナス0.1%にするという措置です。つまり、銀行は日本銀行にある一定以上の準備預金を預けていると、逆に金利を支払わなくてはならなくなる、ということです。
なぜ、このような措置が取られたのかというと、市場にお金を回すためです。銀行は、一般国民や企業に融資をしていますが、貸し倒れの危険がつきまといます。一方、日本銀行に預けておくと、通常なら預金に対して金利が付くので、危険を冒して国民や企業に貸すより日本銀行に預ける方を選択することが多くなります。それでは社会経済が動きにくくなるので、日本銀行がマイナス金利政策を打ち出して、銀行が国民や企業に融資を積極的に行うような状況を作り出そうというのが狙いだったのです。
通常、銀行や証券会社、保険会社といった金融業界は、資金に余裕のある人から資金を集め(預金)、資金が必要な人に融通(融資)をすることで利益を出しています。この融通する資金に対する金利の割合が高いほど、金融業界の利益は大きくなります。しかし、日本銀行がマイナス金利政策を継続している間は、国民や企業が預け入れをしている預金に対する金利も、また、融資に対する金利も低く抑えられることになります。預金金利は下げる限界がありますし、貸出金利にしてもむやみに上げられないため「利ざや」が小さくなって収益性が下がるわけです。
つまり、マイナス金利政策が長期にわたり継続されると、金融業界の利益は低い状態が続くということになります。
高齢社会の到来
金融業界にとって顧客となる企業の数が減少している理由は、経済情勢の低迷や悪化だけではありません。超高齢社会を迎え、中小企業の経営者の高齢化が進んでいます。一方で、後継者が見つけられない企業も少なくありません。こうした状況から、休廃業を選択する中小企業が増加しています。
超高齢社会であり、寿命が延びた日本においては、以前より貯蓄を長く存続させる必要がでてきました。生産年齢人口が多かった時代には、金融商品やサービスは、「資産を稼いで、貯蓄をして、人生設計に沿って使う」ことを基本に提供されてきました。しかし、現在のように景気の低迷が長期化し、賃金上昇が抑えられているもしくは伸びない状況が続くと、人びとは「長い人生を安心して暮らすための資産の守り方」に注目するようになります。金融業界の顧客も例外ではないでしょう。そうした顧客に対応する必要がでてきたことも、金融業界を取り巻く社会変化のひとつといえるでしょう。
金融業界へ参入する企業の増加
デジタル技術の発達やスマートフォンの普及にともない、楽天銀行やPayPayのように、IT、サービス企業等も金融サービスを提供するようになりました。消費者がインターネットを活用した金融取引をしやすくなった今、ますます別業界から金融業界への参入の可能性が高まっているといえるでしょう。
こうした他業界の企業は本業と金融を連携させた、より利便性の高いサービスを次々と生み出してきています。たとえば、トヨタは本業の自動車販売と金融を連携させて、クレジットカード決済や自動車ローンといったサービスを提供することで、顧客の囲い込みに成功しています。また、イオンはクレジットカードやポイント制度を活用して、生活に密着した商品のバンドル販売に成功しています。
仮想通貨の登場
ブロックチェーン技術が開発され、ビットコインという仮想通貨が世界中で利用されるようになって以降、イーサリアムやリップル等の仮想通貨が次々と誕生しました。こうした仮想通貨は従来銀行が行っていたような送金手続きを経ず、インターネットを介して資産を移動させることが可能です。また、日本では仮想通貨に関する規制を明記した改正資金決済法が成立するなど、法的な整備も整いつつあります。
また、仮想通貨が決済手段として利用されるケースも増えてきています。決済方法としてさらに認知・利用が増えれば、仮想通貨の需要は高まると想像されます。

社会変化や歩みから見えてくる金融業界の課題

さまざまな社会変化が短期間で次々と起こる現在。金融業界にはどのような課題があるのでしょうか。

収益性の低下と他業界からの参入で競争力の向上が課題

2016年以降、マイナス金利による物価の安定を図る政策がとられています。そのため、従来のように、預金を集め、必要なところへ貸し付けを行い、それによって利益を上げるというビジネスモデルでは成長しにくい状況が続いています。

また、IT業界から金融業界への参入を果たす企業が増えています。そうしたフィンテック企業の台頭によって、実店舗で提供されてきたサービスや決済などがインターネット上で行われるようになりました。その結果、手数料が低く、時間に左右されない利用が可能となりました。このことが顧客の既存の銀行離れを加速させると懸念されています。

地域企業との協力体制を強化するなど、ビジネスモデルへの対応が課題

とくに 地方銀行においては、地域の人口や企業数が減少するなかで、収益の確保を考える必要があります。

また、大手金融機関においては、少子高齢化にともなって契約数の減少を補うために、保険等の普及がまだ進んでいない地域、たとえばアジアや南アフリカなどの新興国に進出するなど、海外事業の推進を検討することも必要になっています。

セキュリティを確保しつつ、新たなシステムの導入と、業務の効率化が課題

金融業界では、顧客の資産情報や個人情報を扱っています。そのため、セキュリティは万全であることが当然とされています。しかし管理のために1980年代に導入されたシステムを使い続けているケースが多く、複雑化したシステムの維持、メンテナンスにともなうコストが増加してきています。政府が懸念するように、2025年の崖を目の前に、こうした課題に一刻も早く対策を講じる必要に迫られています。

DX推進が課題解決の有効な手段になる

さまざまな課題を解決し、 新しいビジネスモデルを構築して、市場における競争力を高めるためには、金融業界も他の業界同様に、DX推進が必要 だと考えられます。

まずどのような対策が必要なのかを見てみましょう。

クラウドの導入でシステムを刷新する

金融業界では情報システムは、金融庁の監督指針や検査マニュアル、公益財団法人 金融情報システムセンター(FISC)が作成している「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書」の基準があるため、それらの基準を満たさなければ活用できませんでした。そうしたことから高度なセキュリティ水準が要求される金融業界の情報システムは、各金融機関がシステムを構築し、自ら整備するのが当然とされてきました。しかし、 クラウドサービスが普及した現在では、多様な安全基準を満たしたサービスが登場し、金融業界においてもクラウドサービスの活用が進んでいます。

クラウドサービスの導入によって、オンプレミス型で運用していたシステムを刷新し、維持コストの削減を図ることが可能になると考えられます。

さらに、クラウドサービスを活用することによって、システム開発やサービス提供までの時間を短縮することも可能です。そのため、顧客のニーズ変化を的確にとらえ、顧客の利便性向上を実現することができるようになります。

オープンAPIの活用で利便性を高める

オープンAPIを活用することで、金融機関のシステムと外部データを連携させ、安全に活用することが可能になります。たとえば、小売事業者が決済や融資を行えるBaaSを活用することで、金融サービス提供の幅を広げることもできます。

AIの活用で業務を効率化する

金融業界においては、顧客への対応が重要とされてきましたが、生活時間や場所などに縛られない利用を望む顧客も少なくありません。そうした多様なニーズをもった顧客に、丁寧に迅速に対応するためにAIの活用も有効です。たとえば、問い合わせに対して、AI搭載のチャットボットが回答し、時間と場所の制約を解消することで、顧客満足度の向上が図れます。

IoT機器を活用して情報を収集する

金融業界では、顧客にサービスを提供するにあたり、顧客情報を細かく確認し、判断し、提供サービスを決定することが必要です。たとえば、自動車保険において、ドライバーの運転特性や走行距離、事故履歴などを自動車に搭載したIoT機器からデータとして収集し、保険の等級などを決定するテレマティクス自動車保険などがあります。

また、融資のための情報を集め、職業や勤続年数などの属性には依存しないデータを分析することで、より適切な審査が行えるようになると考えられます。

こうした体制やシステムの構築は、顧客満足度、より適切なサービス提供へとつながると考えられます。

金融業界を取り巻く課題と変革の方向性についてのヒントは、次の記事も参考になります。

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金融業界におけるDX事例については次の記事も参考になります。

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金融業界のDX成功事例

では金融業界でDXを成功させた事例を見ていきましょう。

株式会社りそなホールディングス:会えない顧客とのつながりを拡大

株式会社りそなホールディングスでは、銀行の常識や枠組みにとらわれることなく、新しい発想で時代の変化に適合し、顧客に新しい価値を提供することをめざしています。そのなかで、「デジタル」と「リアル」の融合を目的に、デジタル技術を最大限に活用することで、「会えないお客さま」との取引機会の拡大に取り組みました。個人領域においては、顧客が銀行に行かなくてもフルバンキング機能を提供できる環境を構築することで、利用してもらえる可能性を高めました。「うすく」×「ひろく」×「ながく」収益を獲得していくためのビジネスモデルへと変革をめざした取り組みです。

また、法人領域においても、スマートフォンで利用可能な法人向けバンキングアプリを開発して、営業担当者が訪問できていない法人顧客との収益機会の拡大をめざしています。

さらに2022年4月には日本IBM(株)、(株)NTTデータと合弁会社「FinBASE」を共同設立しました。これによって、経営戦略と連動してスピーディーに展開可能な体制が構築されました。

東海東京フィナンシャル・ホールディングス:地方創生にフィンテック機能を融合

東海東京フィナンシャル・ホールディングスでは、既存のソリューションの拡張を行っています。具体的には、2022年12月にPEファンドのセキュリティ・トークンの初号案件を販売しました。従来は機関投資家に限定的に販売される金融商品を個人投資家向けにトークン化して販売する初の事例となりました。また世界初のポイント株主プログラムと連携を開始しました。上場企業の自社ポイントを有する生活者向けに、企業への投資体験サービスを提供することで、上場企業の株主づくりをサポートしています。さらに、2023年には自社開発の証券システムの活用により、地方銀行アプリへの証券機能導入を行いました。これは銀行証券会社連携のシームレスな金融サービスの提供を実現するものとなりました。

MS&AD:事故や防災へのリスクマネジメントで安全で災害に強いまちづくりを支援

MS&ADはデジタル技術を活用して社会課題を解決する「CSV(共通価値の創造)×DX」をグローバルに展開することによって、すべてのステークスホルダーと価値を協創することをめざしています。

たとえば、事故データや事故発生と関連性の高い地形、道路構造、人口・人流、運転挙動といったデータをAIで解析して、道路区間や交差点ごとのリスク値を出し、「事故発生リスクAIアセスメント」として地図上に可視化することを実行しました。また自動車保険のデバイスから取得した自動車の走行データを活用して「交通安全EBPM支援サービス」を実施しています。これは危険箇所候補の洗い出しや詳細分析を行うもので、分析結果をもとに、最適な交通安全対策の提案も行っています。

防災へのリスクマネジメントについては、世界初のリアルタイム被害予測ウェブサイト「cmap(シーマップ)」を公開しました。建物被害を予測するほか、気象・災害・ライフラインに関するSNS投稿からフェイクニュースを除去するためにAI解析を使用して、地域ごとにまとめ表示ができる機能や避難所の混雑状況などを表示できるようになっています。また自治体向けに「防災ダッシュボード」を開発しました。災害リスクをリアルタイムに可視化できるもので、防災、減災に関する情報を収集し、分析することも可能です。

まとめ: DX推進するなかでデータドリブン経営を実現させ、新たなビジネスモデル創出をめざす

DXを推進するなかで、さまざまな取り組みを進め、膨大なデータを収集できるようになると、それらのデータを活用して、より的確で、戦略的な経営を実現させることができます。 データを十分に活用したデータドリブン経営は、社会や顧客のニーズが目まぐるしく変化していく時代において、必要な経営の形だといえるでしょう。金融業界においてもそれは同様です。

また、地域企業との連携や他の金融関連の企業との連携、自治体との協働など、デジタル機能を展開して新たな体制を構築することも、競争力の強化につながると考えられます。

まずは、自社の現状を把握し、どういった未来像を描くのかを明確にすることから始めてはどうでしょうか。レガシー化したシステムをどのような形に改修していくのか、専門的なアドバイスを受けながら進めるのが効率的で間違いのない方法だといえます。経験と知識をもつ専門企業への相談からスタートする、というのも最適解といえるでしょう。