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教育DXでこれまでの学びのあり方や校務を変革する

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さまざまな分野でDXへの取り組みが加速度的に実行されています。その結果、多くの企業や組織で業務の効率化や利便性の向上といった成果が出ています。一方で、一部の業務はデジタル化されたのに、新しい価値創造やビジネスモデルの改革、顧客満足度といった成果につながらないケースも少なくありません。こうしたなか、教育現場でもDXを推進して、学びのあり方、校務のあり方を改変する取り組みが進められています。

教育現場でのDXはどのような成果につながるのでしょうか。今回は、教育DXとは具体的にどういった概念なのか、そして、DXを推進した結果、どのような変化や効果が期待できるのか。成功させるためのポイントなどについて考えてみましょう。

教育DXとは

教育現場におけるDXを考えるまえに、DXとはどういったものかを確認しておきましょう。経済産業省が「デジタルガバナンス・コード2.0」(2022年9月13日改訂)のなかでも示しているように、DXの定義は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。

教育現場におけるDXとはデジタル技術を活用した教育モデルの改変

一般的なビジネスや組織運営においてDXとは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや価値観を新しく創造し、競争上の優位性を確立したり、社会的な利便性を高めたりすることで、より良い暮らしができる社会を構築していくことが大きな目標だと言えます。

 

そうした視点で教育現場におけるDXを考えると、「デジタル技術を活用することで、教育モデルを改変する。デジタル技術を導入して校務をより効率的に、効果的に行える環境に改変するのみならず、社会の激しい変化のなかで、いまよりもさらに柔軟で選択肢の多い教育環境で、生徒一人ひとりに適した教育が提供できるようにすること」だと言えるでしょう。

DX推進のヒントを探るときには次の記事をご参考ください。

DX推進・成功事例から実施のヒントを探る~国内・海外成功事例22選~

なぜ教育DXが必要とされているのか

では、なぜ教育現場においてDX推進が注目され、DXによる改変が必要とされているのでしょうか。ひとつには、教育現場における校務の効率化と、教育現場で働く従業員の働き方改革実現という観点でDX実現が必要です。校務を効率化し、時間と資金、作業のムダ、ムリ、ムラを削減することで、本来注力すべき教育の質の向上に注力できます。もうひとつは、教育を改変し、より充実した学びの機会を創出することが求められている点です。それについて詳しくみていきましょう。

デジタル化が進む社会に対応するため

企業はもちろんのこと、自治体やさまざまな組織において、DX推進の過程で、デジタル化が進められています。いま学びの途中にある子どもたちは生まれたときからスマートフォンやインターネットが身近にある環境で育っており、デジタルネイティブと呼ばれる世代です。スマートフォンの使い方やインターネットを活用する方法などは、あたりまえのように身についたとしても、リスクを理解し倫理観をもって使いこなすには教育が必要です。

社会はますますデジタル化へと進み、すべての人にデジタルリテラシーが求められるようになります。こうした社会の変化を踏まえ、教育現場においてもDXが必要とされています。

遠隔での教育、習熟度に応じた個別の授業の有用性

さらに、2020年初頭から日本においても猛威を振るった新型コロナウイルスによって、教育現場はオンラインによるリモート授業の必要性を認識することになりました。この事態はさまざまな課題とともに、新しい教育の可能性を示すことにもなりました。たとえば、地方と都市部の教育格差や学びの機会の偏りを解消するという意味でも、オンラインを活用した教育は重要になると考えられます。

また、個人ごとに学習の習熟度は異なります。一人ひとりが使えるICT機器やネット環境を活用して個別学習がしやすくなり、学びの質も高まると期待されます。

教育のデジタル化を推進している文部科学省の姿勢

政府の各分野におけるDX推進に合わせ、文部科学省は教育現場におけるDX推進の取り組みを行っています。目的はICTを活用できる人材を育成するためです。

政府の示す「AI戦略2019」ではデジタル社会において必要とされる基礎知識として、「数理・データサイエンス・AI」を挙げています。これをうけ、文部科学省では、高等学校卒業者全員が、これら基礎知識を習得することを目標にしました。

2020年に文部科学省は「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」を発表し、さらに、2022年にデジタル庁、総務省、経済産業省と連携した「教育データ利活用ロードマップ」を示しています。文部科学省におけるデジタル化推進プランの概要は以下のようなものです。

初等中等教育: GIGAスクール構想
学校をはじめとする教育施設における高速ネットワーク環境を構築するとともに、生徒一人ひとりに学習用端末を配布し、デジタル教材やMEXCBT(メクビット)を活用した個人の学習習熟度に合わせた学びや、協働的な学びを実現します。
MEXCBTは生徒が学校や家庭において、国や地方自治体などの公的機関などが作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができる公的CBT(Computer Based Testing)プラットフォームで、2021年12月からは、希望する全国の小・中・高等学校などにおける活用をスタートしました。その後、2023年6月には、約2.5万校、約800万人が登録しています。普段の授業や家庭学習などをはじめ、全国学力・学習状況調査や地方自治体独自の学力調査など、幅広い用途での活用を推進しています。
高等教育:デジタル活用の推進
高等教育においては、データサイエンスやAIを扱える人材の育成を目標に、高等教育の高度化を進めています。国立大学法人などにおけるハイブリッド教育研究環境の整備や大学入学者選抜におけるデジタル活用などがその取り組みの一環です。
生涯学習・社会教育:デジタル化の推進
高等学校卒業程度認定試験や中学校卒業程度認定試験の受験申請・証明をテジタル化します。また、専修学校におけるオンライン・先端技術利活用を推進と支援が十分にできる環境整備を進めています。また、生涯学習や社会教育分野においてもICTを活用した取り組みをしています。
教育データの利活用
教育データを標準化し、効果的な利活用ができる環境構築を目指します。

教育DXが実現すると何がどう変わるのか。それぞれの立場のメリット

教育DXを実現できると、何がどのように変わるのでしょうか。生徒・保護者、教育者、それぞれの立場でメリットを確認しておきましょう。

生徒・保護者にとってのメリット

自分の理解度や学習状況に合わせた学びができる
デジタル教科書やネットを活用したeラーニングなどで学習ができるようになると、理解不足の部分は自分が理解できるまで何度でも繰り返し学べます。教室での教科書を活用した学びでは、他の生徒との進度と合わなければ、その場で理解できるまで繰り返し教えてもらうことは難しいでしょう。
リモートで授業を受けられる
教室にいなくても、どこからでも好きな授業を受けることが可能になります。パンデミック発生や災害時においても、リモートで遠隔地から授業を受けられます。また、リモートで授業が受けられると、通学時間が不要になるため、その時間を有効活用できます。
デジタル教科書を活用した効率的な学びができる
デジタル教科書を活用することで、多くの情報を知る機会が増えるという点もメリットです。音声・画像、アニメーション、動画などを駆使した情報がデジタル教科書では閲覧が可能です。文字情報や写真からの情報だけでは理解しにくかった内容も、視覚的な情報を得ることでより深く理解することが期待できます。
学校との連絡がスムーズになる
保護者にとってのメリットの大きな点は、学校との連絡がスムーズになることだと言えるでしょう。子どもが病欠をするときや、インフルエンザの流行といった事情で学校が休校になる場合など、保護者から、あるいは学校から、電話連絡を行うのが一般的でした。こうしたケースでも効率的に連絡ができるのはメリットです。
子どもたちの学習状況を把握できる
保護者にとって子どもたちの学習状況や理解度などは学期末の成績表やテスト結果から判断するのが一般的です。そのほか子どもが学校でどのように生活をしているのかについては、保護者面談の機会に担任の教師から聞く、あるいは仲の良い保護者とのコミュニケーションから察する、ということになるでしょう。教育DXが実現されると、成績の状況や学びの進度、学校での生活の様子などを学校と保護者が共有しやすくなります。こうした環境が整うことで、子どもの学びや育成について、保護者と学校がともに取り組む体制が強化されることが期待できます

教育者にとってのメリット

子どもたち一人ひとりに最適な教育を提供できる
多様な個性をもった子どもたちを教える側にとっての最大のメリットは、一人ひとりに合わせた教育ができるようになることです。
教育DXが実現することで、子どもたちの学習データが蓄積できる環境が整います。個々の学習進度によって、苦手分野、得意分野が把握できるほか、どのようなサポートを提供すれば、より理解が深められるのかを分析することも可能になります。
データ活用によってこのような充実した教育支援やサポートができ、アナログで資料を作成していたことに比べると、かなりの作業負担を軽減させられます。
校務や事務作業が効率化できる
さらに、教えること以外の仕事として負担が大きかった事務作業の効率化も図れます。たとえば、テストの作成や採点、テスト結果の分析と子ども一人ひとりの理解度把握など、データ活用によって、より正確に行えます。こうした授業の前後に必要であった事務作業が効率化されることで、教育者の残業時間短縮も期待できます。
また、保護者への連絡もITシステムを活用することで、スムーズに行えます。こまめなコミュニケーションができるようになると、保護者からの情報も得やすくなります。その結果、子どもたちへの対応もより適切なものになると期待できます。

教育DX推進における課題

教育DXを推進するために解決しておくべき課題があります。主な課題を確認しておきましょう。

インフラの整備

データを活用して学びのあり方や教育の進め方などを改変するためには、インフラを整備し、その環境を維持していかなくてはなりません。

セキュリティ対策

教育現場には、子どもたちが学んだ記録や成績、健康情報、保護者の情報、教職員の人事情報など、さまざまな情報が保管されることになります。これらの情報を守るためのセキュリティは水準の高いものにする必要があります。

教職員のリテラシー

子どもたち一人ひとりに端末が導入され、オンラインで授業やデジタル教科書の活用がさらに進むようになっても、教師や事務作業を担当する職員にICTに関する知識や経験が不足していると、デジタルの可能性を十分に生かせません。教職員のリテラシー向上は根本的な課題だと言えます。

教育DXの事例

教育DXへの取り組みを具体的に進めている学校現場の事例をみておきましょう。

MEXCBTの活用事例

文部科学省が展開しているMEXCBTを活用した授業や家庭学習などへの活用事例(2022年7月時点)です。

宮崎県川南町立唐瀬原中学校
宮崎県の川南町立唐瀬中学校では、まずMEXCBTの活用方法について職員研修で共通理解を深めることからはじめました。そして、単元テストや実力テスト対策など、学びの確認のために活用し、自習課題の取り組みにも利用しています。
生徒たちからは、繰り返し問題を解くことができるので記憶に残り、学習効果が高いと実感できる、という声が聞かれます。
教師からは、いままではテストのたびに問題を印刷し、配布する必要があったが、その手間を他の作業に充てられるので作業効率が良くなった、との反応が見られました。
こうした生徒、教師からの反応をうけ、全国学力学習状況調査の過去問などにも積極的に挑戦して、学力を身に付けるための一助に活用していきたいと考えています。
広島県福山市立深津小学校
広島県の福山市立深津小学校では、年度初めに研修を実施し、学級の設定などを完了させ、1日15分の帯タイムや家庭学習の課題としてMEXCBTを活用しています。そのほか、単元が終了したあとに学習内容がどれくらい理解されているのかを確認するために利用しています。
子どもたちからは、配布された課題を自分のペースで取り組めると好評です。また、考える問題が難しいと感じるところもあるが、解けたときの喜びや達成感があるとの声が聞かれます。
教員からは、子どもたちの理解度を把握できるので、支援の必要な子どもに声がかけられるようになったことや、単元ごとの問題をプレテストとして活用することで、より確実な理解へとつなげられると感じている、との反応がありました。さらに、新型コロナウイルスによる臨時休校時でも、課題が配布できたことで、業務軽減にもつながりました。
今後は、子どもたちが身につけた知識を活用する力がどれくらいあるのかを把握するため、また、長期休校中の学習や家庭での自主学習などでも活用を考えています。

高等教育現場における事例

近畿大学
近畿大学では、先進的に大学教育におけるDXの取り組みを進めています。
施設利用の予約システム導入や、授業のオンライン化を体制化させ、対面とオンラインのハイブリッド運用を確立させました。具体的には、同大学では、2021年に音響・画像処理設備を備えたスタジオを新設し、クオリティの高いオンデマンド授業を制作しています。授業は対面とオンデマンドから選択可能とし、時間や場所を問わずに受講できるハイブリッド式の授業を提供しています。
そのほか、学内の手続きや授業におけるペーパーレス化を宣言し、取り組みを加速させています。たとえば、2019年4月にNTTデータ関西が開発した「学費収納業務効率化ソリューション」を導入しました。これにより大幅なコストカットが実現したと同時に、振込時に手作業で行っていた部分を自動化したことで、振り込みミスの削減にもつながりました。
こうした取り組みの結果として、学生のさまざまな申請手続きや活動をスムーズにすると同時に、職員の業務負担を軽減させることも実現しています。
▼ 本事例の詳細について
近畿大学様 | 導入事例 | 株式会社NTTデータ関西
立命館大学
立命館大学は、人手に頼らざるを得なかった単純ながらも大量で定期的に発生する定型業務を効率化し、職人の業務の軸を「作業」から「創造的業務」へと移行するための取り組みを開始しました。
まず財務部において試行的な取り組みとしてRPA(robotic process automation)の「WinActor」を導入しました。
そして支払手続きを行う業務のなかで「確定」と呼んでいるプロセスをWinActorに置き換えました。この置き換えによって、1回に行う薬3,000件の業務が自動化されました。この業務は毎週必ず発生するもので、年間では約25万回の手作業が自動化されたことになり、大きな業務改善を実現しました。
▼ 本事例の詳細について
立命館大学様 | 導入事例 | 株式会社NTTデータ関西
大学での取り組みについて詳しくは以下の記事も参考にしてください。
独自の様々な課題を抱える大学だからこそ、NTTデータ関西の「一緒になって前に進んでいく」スタイルがマッチする

まとめ: 学びは好奇心・興味が原点。教育DXで深い学びを提供し、効率的な教育事務が可能な環境をめざす

新しいことを知りたいと思う気持ち「興味」は学びの原点だと言われます。教育現場で教育者や教育事務を担う職員が日々の業務で時間も労力も疲弊した状態では、子どもたちが興味を持つ幅広い情報を提供することが難しいかもしれません。

あたりまえのように時間外労働をこなしていた教師が、教育に専念できる環境が整うことで、提供できる学びの姿が変わるかもしれません。

教育現場の現状を見直し、まずはデジタル化に対応した環境を構築することからはじめてはいかがでしょうか。また、教育者や教育事務を担う職員のデジタルリテラシー向上にも取り組む必要があります。今回の記事を参考に、教育DXへの取り組みを加速させましょう。