スマートファクトリーとは?製造業を変革するロードマップと必要な技術
製造業界では、IoTやAIなどのデジタル技術を活用して生産性と品質を向上させる「 スマートファクトリー 」への注目が集まっています。具体的にはどのような手順を踏めば理想のスマートファクトリーを実現できるのでしょうか。
本記事では、スマートファクトリーの定義や注目されている理由、導入メリットを詳しく解説するとともに、実現のための技術要素や導入事例も紹介します。さらに、経済産業省が提示しているスマートファクトリー実現までのロードマップをもとに、その実現までの道のりを3つのステップに分けて具体的に見ていきます。
製造業のDXを推進する上で欠かせないスマートファクトリー化。その全体像を理解し、自社に適した導入シナリオを描くためのヒントがきっとここにあるはずです。ぜひご一読ください。
目次
スマートファクトリーとは
ここではスマートファクトリーとは何かをわかりやすく定義し、意味を解説します。また、現在スマートファクトリーが注目されている理由についても見ていきましょう。
スマートファクトリーの定義
スマートファクトリーとは、 IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ロボット技術などを駆使して、製造工程の自動化・最適化を進め、生産性と品質の向上を図る工場 のことです。
従来の工場では人手に頼る作業が多く、設備の稼働状況や品質のばらつきを正確に把握することが難しいという課題がありました。
スマートファクトリーでは、 センサーやカメラなどを通じて収集したデータをリアルタイムで分析・活用することで、生産ラインの可視化と最適制御も可能 です。また、機械学習を用いて不良品の発生を未然に防いだり、需要予測に基づいて生産計画を自動調整したりといった、高度な意思決定の自動化も可能になります。
製造業でスマートファクトリーが注目されている理由
近年、製造業では競争の激化や顧客ニーズの多様化が進むなか、 より高品質な製品をタイムリーに、かつ低コストで提供することが求められる ようになっています。加えて、熟練工の引退に伴う技能承継の問題や、若手人材の確保難といった課題にも直面しています。
こうした経営課題を克服し、市場での競争力を維持・強化していくために、製造業各社はさまざまな対応策を検討し始めています。その対応策の一つとして、デジタル技術を武器にオペレーションの効率化と付加価値向上を図るスマートファクトリー化に取り組み始めているのです。
スマートファクトリーへの移行は、単なる省力化や無人化ではありません。 データとデジタル技術を駆使して現場の課題解決力と変化適応力を高め、新たなビジネスモデルを創出するDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指した取り組み とも言えます。
上記が、製造業の未来を左右する重要テーマとして注目度が高まっている理由です。
製造業のDXに関して、下記の記事で詳しく解説しています。DX実現までのフローやメリット、解決するべき課題まで、ぜひ参考にしてみてください。
「国際競争力の低下」「進まない無形固定資産への投資」などの課題を解決!DXは製造業にとっても重要な理由と事例を紹介
スマートファクトリー導入のメリット
スマートファクトリーはビジネスモデルまでを変革し得る大きな取り組みです。
そのため、「ほかの企業が導入しているから」「流行しているから」といった単純な理由だけで導入を進めるのは危険です。
本項で、メリットを十分に理解しておきましょう。
生産性の大幅な向上と品質の安定化
スマートファクトリー化の第一のメリットは、 生産性の飛躍的な向上 です。IoTセンサーによるリアルタイムの設備モニタリングと、AIを活用した生産計画の最適化により、ラインの稼働率を上げられます。また同時に、ボトルネックや無駄の発生を未然に防げるようになります。
品質の安定化は、手戻りや廃棄ロスの削減にもつながり、生産性向上に寄与するでしょう。
コスト削減と資源の効率的活用
スマートファクトリーの2つめのメリットは、 コスト削減 です。AIによる需要予測の高度化により、必要な材料や部品の調達量を最適化し、在庫コストを抑えられます。また、IoTセンサーで収集した電力使用量や設備の稼働状況のデータを分析することで、無駄なエネルギー消費を削減したり、予知保全による計画外の設備停止を防いだりと、ランニングコストの低減が図れます。
製造プロセスを最適化することで、原価も最小限に抑えられるでしょう。また、設備故障を予兆検知できれば、修理コストも抑えられるのではないでしょうか。
限りある経営資源を賢く配分し、競争力を高めるための武器としてスマートファクトリー化に期待が集まっているのです。
柔軟な生産体制の確立
変化に強い柔軟な生産体制の実現も、大きなメリットです。スマートファクトリーでは、AIによる需要予測を起点として、必要な生産リソース(設備・材料・人員など)の配分を最適化します。多品種・少量生産や、急な仕様変更などにも俊敏に対応できるようになります。
このような 柔軟な体制が構築できれば、近年の変化の速い市場においても、迅速にニーズに合わせた対応が可能 です。迅速かつ低コストに製品をカスタムできることで、サービスの高品質化にもつながり競合との差別化も実現できるでしょう。
目まぐるしい市場の変化をビジネスチャンスとしてプラスに捉えられるようになるのも、スマートファクトリーが注目されている理由です。
イノベーションの促進
スマートファクトリー化には、製造プロセスを革新する役割もあります。
IoTやAIツールの導入は、現場の課題や改善機会の「見える化」を促し、改善活動の活性化にもつながります。 データに基づく仮説検証サイクルを回すことで、新たな気づきが生まれイノベーションが促されるのです。
また、リアルな設備をデジタル空間上に再現する 「デジタルツイン」技術 を活用すれば、新しい製造方式の検証を、実機を動かすことなくシミュレーションで行うことも可能です。
デジタルツインについては、のちほど詳しく解説します。
イノベーションの種類や現状・成功事例については、以下の記事も参考になります。
イノベーションはどうやって起こす?必要なこと、成功事例を紹介
人材不足の解消と人材育成
スマートファクトリー化のもうひとつの大きな目的は、人材難への対応です。少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少で、現場の人手不足が深刻化しつつあります。ベテラン従業員の引退に伴う技能承継の問題も見過ごせません。
この課題に対し、スマートファクトリーで 自動化・省人化を進めることで、人材不足からの脱却が可能 です。加えて、 熟練者のノウハウをAIに学習させれば、技能のデジタル化・標準化も期待できます。 不足している「現場力」を、デジタル技術でカバーしていくことが肝要なのです。
また、デジタル化の進展に合わせ、現場のオペレーターの役割も、単純作業の実行から、生産ラインの管理・監督へとシフトします。
スマートファクトリーは、製造業の労働環境の「きつい、汚い、危険」という3K職場から、クリーンでクリエイティブな高度人材の活躍の場へと変えていきます。そんな人材革命の起爆剤としても期待されているのです。
スマートファクトリー実現のための技術要素
スマートファクトリーを実現するには、どのような技術が必要なのでしょうか。不可欠な技術要素について詳しく見ていきましょう。
IoT
IoTとは、さまざまなモノ(設備や機器、製品など)にセンサーを取り付け、インターネット経由で相互につなぐ技術のことを指します。
製造現場においては、Industrial IoT(IIoT)と呼ばれる産業用IoTの活用が進んでいます。
具体的には、製造設備にセンサーを装着し、ネットワークに接続することで、設備の稼働状況や環境条件、品質データなどをリアルタイムに収集・監視できるようになっています。
この仕組みにより、製造プロセスの可視化と最適化を図るのがIIoTの役割です。
現場での監視業務を効率化できるIoTツールの一つに、NTTデータ関西が提供する「 IoTone(アイオートーン) 」があります。
IoToneは、 製造現場の生産設備や鉄道車両の異音検知作業を代替するシステム です。
NTT研究所で長年にわたり蓄積された音響技術と、AIの学習機能を組み合わせたシステムにより、これまでの「人手による聞き分け」を自動化します。
▼ IoToneの詳細について
ビッグデータ解析
IoTセンサーから 収集した大量のデータを分析し、需要予測や設備の異常検知、品質管理、在庫最適化などに活用 します。 AIの力を借りることで、従来人手で行っていた高度な判断を自動化 できます。
収集・分析したデータをもとに課題解決や意思決定を行う考え方やプロセスを「データドリブン」と呼びます。データドリブンを使った経営事例やメリットは以下の記事でも解説しています。
【基礎編】データドリブンとは?いま注目の理由と必要なツール8選をわかりやすく解説
デジタルツイン
現実の製造設備や工場をデジタル空間上に再現し、シミュレーションや予測に役立てる技術です。リアルとサイバーが同期することで、生産計画の検証や機器の異常予兆を発見できるようになります。
セキュリティ
ネットワークにつながった製造設備を外部からの脅威から守るため、サイバーセキュリティ対策の強化が欠かせません。 機密データの暗号化、不正アクセスの監視・防御など、多層的なセキュリティ基盤の構築が求められます。
セキュリティの概要や、対策の具体例は以下の記事も参考にしてみてください。
情報セキュリティの概要と対策の具体例とは。サイバーセキュリティとの違いも解説
また、DX戦略におけるセキュリティ対策のポイントやNTTデータ関西が手掛けるセキュリティ対策の特徴については、下記で詳しく語っています。
▼ インタビュー記事
「息をするようにセキュリティ対策」の時代へ―NTTデータ関西がリードする「守りのDX」
ERP
ERP(Enterprise Resource Planning)は、企業資源計画を意味し、企業のさまざまな業務プロセスを統合的に管理するためのソフトウエアシステムです。スマートファクトリーの文脈では、ERPは製造業務とほかの関連業務を連携させ、効率的な運営を実現するための重要な技術要素のひとつとなっています。
ERPツールのひとつに、NTTデータ関西が提供するWeb ERPソリューション「BIZXIM製番」があります。BIZXIM製番は、 多品種少量生産形態を行う「個別受注生産業」に特化した、製造業向けのソリューション です。パッケージソフトに近い形態のため、基本的な必要機能の多くが搭載されています。
▼ BIZXIM製番の詳細について
スマートファクトリー化のロードマップ【経済産業省推奨】
スマートファクトリー実現までのロードマップとして、経済産業省が公開している「システム導入のステップ」について解説します。
ステップ1:スマート化の構想策定
スマート化の第一歩は、明確な目的・目標を設定し、社内の体制を整えることです。経営者自らが強い意思を持ってトップ主導でスマート化を推進しましょう。
また、自社のビジネス戦略や課題に基づき、スマート化の目的や数値目標を明確にします。スマート化の対象範囲やレベル、コストなどを定義していきましょう。
関係部門の役割を明確にし、推進体制を構築することも重要です。データ提供者側にもメリットがあるwin-winの仕組みを組み込みます。
ステップ2:トライアル・システム導⼊
構想策定の次は、実際にシステムを導入し、トライアルを繰り返しながら改善していくフェーズです。以下のようなポイントに留意しましょう。
- 将来の全体最適を見据えつつ、部分的な課題解決からステップを踏んで進める
- 収集するデータを絞り込み、自動化によって現場の負担を軽減する
- 初期段階では機能を最小限に絞ってスモールスタートを切る
- リスクが小さく効果の出やすいところから着手し、PDCAを回して改善する
- 将来的な拡張性を考慮し、段階的に標準化されたツールの活用を進める
ステップ3:運用
システムが軌道に乗ったら、その効果を最大化し、継続的な改善を進めるステップです。運用フェーズでは、定量的な効果測定を継続し、小さな成果も早期に共有して従業員の意欲を高めることが重要です。
また、現場のオペレーターを、IoTの活用ができる人材へと育成しましょう。
日々の気づきを反映し、システムと運用ルールを絶えず見直し続けることで長期的な定着につながります。
スマートファクトリー化は、一朝一夕には成し遂げられません。トップのコミットメントを起点に、現場の知恵を結集しながら、地道にレベルアップを図っていきましょう。長期的な視点に立ったロードマップ作りが重要です。
スマートファクトリーの取り組み事例
スマートファクトリーの導入事例を2つご紹介します。
三菱電機株式会社
三菱電機株式会社は、自社の主力製品であるFA機器と各機器を連携させることで、工場内に埋もれているデータ価値を見いだしたいという考えのもと、スマートファクトリー化に取り組んでいます。
具体的には、FA-IT連携技術、制御技術、産業用ネットワーク技術といった基本技術の開発を行っています。また、開発後も、同社の「e-F@ctory(工場内で生産情報とITを連携させる仕組み)」で実証を行う自社モデル向上を増やし、洗い出した課題に対して機器やサービスの改良を重ねています。
IoT化指標を作成しながら、顧客それぞれに合ったソリューション提供を実現しているのも取り組みの特長です。
自社の強みを生かしながら、ものづくり全体としての生産性向上やコスト改善を実現した良い事例と言えるでしょう。
(参考: 経済産業省「製造業DX取組事例集」 )
株式会社釜屋
熊本県の食品加工・販売会社である株式会社釜屋は、自社製品と受託生産品の需要増加に伴う生産能力の限界を解決するために、工場のIT化とロボット化を決定しました。最終工程であるパレットへの積付作業を自動化するため、多様な段ボールの種類、積付パターン、使用パレットに対応できるロボットハンドと制御方法を開発し、限られたスペースに省スペース型の回転型パレットチェンジャを新たに導入しました。
導入後、重労働から解放された女性作業員を検査や計量工程に割り当てることで、労働面と品質面での向上に成功しています。今後も人員不足や生産能力向上にロボットは必要不可欠であると確信を持っています。
(参考: 経済産業省「ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2018」 )
まとめ:スマートファクトリーで製造業のDXを加速
スマートファクトリーとは、IoTやAIなどのデジタル技術を駆使して生産性と付加価値を高める、先進的な工場の姿です。
製造業の経営課題解決と競争力強化の切り札として、スマートファクトリー化への注目が集まっています。導入に向けては、明確な目的・目標設定と社内体制の整備から始め、トライアルを重ねながら段階的にレベルアップを図ることが肝要です。
技術面ではIoTを基盤に、ビッグデータ、AI、デジタルツイン、ERPなどを適材適所で組み合わせる ことが求められます。加えて、 セキュリティ面の対策も欠かせません。
DXの旗手として 製造業が変革を遂げるには、トップのコミットメントを起点に、現場の知恵を結集しながら、地道な取り組みを積み重ねていくことが重要 です。スマートファクトリーは、ものづくりの未来を切り開く鍵になるでしょう。
スマートファクトリー化をサポートするERPツールとして、NTTデータ関西が提供するWeb ERPソリューション「BIZXIM製番」もひとつの選択肢となります。
BIZXIM製番は、 多品種少量生産形態を行う「個別受注生産業」に特化 した、製造業向けのソリューションです。
▼ BIZXIM製番の詳細について
また、下記のインタビュー記事にて、BIZXIM製番を含む基幹システムについて具体的な導入の流れやサポート体制などについて語っています。
▼ インタビュー記事