クラウドストレージの選定から導入まで - 企業・自治体のIT担当者のための実践的導入戦略

クラウドストレージは従来のオンプレミスストレージと比較して、初期費用と運用負荷を大幅に軽減できる新しいIT基盤の仕組みです。その効果を最大化するには、組織の要件に適したサービスの選択と戦略的な導入計画が不可欠です。企業や自治体のシステム担当者にとって、適切な選定と導入戦略の策定が競争力維持の重要なポイントとなります。
本記事では、クラウドストレージの基本概念から具体的な選定基準、セキュリティ対策、導入手順まで、実践的なアプローチを体系的に解説します。
クラウドの導入・構築についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
クラウド導入のメリット・デメリットとは?選び方のポイントも解説
目次
クラウドストレージとは?従来のシステムとの根本的な違い
クラウドストレージとは、インターネット経由でアクセスできるオンライン上の仮想ストレージサービスです。物理的なハードウェアを自社で保有せず、クラウドプロバイダーが提供するストレージ基盤を利用します。
従来のオンプレミスストレージでは、サーバーやストレージ機器の購入、データセンター設備の整備、専門技術者の配置など、多額の初期投資が必要でした。これに対してクラウドストレージは基本的に従量課金制で、用途やサービスによっては定額課金プランも選択でき、投資リスクを最小化できます。
さらに重要な違いは拡張性にあります。オンプレミス環境では容量不足が発生した際、新たな機器調達から設置まで数ヶ月を要する場合があります。クラウドストレージなら管理画面での設定変更により、基本的に数分以内で容量の変更が完了します。
データアクセスの柔軟性向上
クラウドストレージの最大の特徴は場所を選ばないデータアクセスです。従来のファイルサーバーでは、社内ネットワーク経由でのアクセスに限定されていました。
テレワークの普及により、自宅や外出先からの安全なデータアクセス需要が急増しています。クラウドストレージはVPN接続不要で、多要素認証やアクセス制御により高度なセキュリティを維持しながら柔軟な働き方を支援します。
モバイルデバイスからのアクセスも標準機能として提供され、営業担当者がタブレットで最新の提案資料を参照したり、現場作業者がスマートフォンで作業報告書をアップロードしたりできます。
災害対策・事業継続性の強化
地理的に分散された複数のデータセンターでデータを自動複製することにより、単一障害点を排除します。東日本大震災のような大規模災害時でもデータの安全性を高い水準で確保できます。
オンプレミス環境では、災害対策用の遠隔地バックアップサイト構築に数千万円の投資が必要でした。クラウドストレージならはるかに低額で包括的な災害対策が実現できます。
また、自動バックアップ機能により人的ミスによるデータ消失リスクも軽減されます。バージョン管理機能で過去の任意時点へのデータ復旧も可能になります。
事業継続性(BCP)の強化については次の記事も参考にしてください。
BCP対策とは何をどうすればよいのでしょうか? 企業や自治体に必要な事業継続計画の策定手順と運用方法
クラウドストレージの選定で重視すべき5つの評価基準
適切なクラウドストレージの選定には、セキュリティ、性能、コスト、拡張性、サポート体制の5つの観点から総合評価することが重要です。
セキュリティ・コンプライアンス対応
データ暗号化は選定の最重要項目です。保存時暗号化(AES-256)と転送時暗号化(TLS1.3)の両方に対応していることを確認します。
政府機関や自治体ではISMAP(情報システムのためのセキュリティ評価制度)登録サービスの選択が推奨されます。金融機関ではFISC安全対策基準への準拠状況を重視します。
また、アクセスログの詳細記録と長期保存機能により、セキュリティインシデント発生時の原因究明や監査対応が可能になります。シングルサインオン(SSO)連携により、既存の認証基盤との統合も重要な評価ポイントです。
クラウドのセキュリティについてより詳しく知りたい方は、次の記事も参考にしてください。
性能・可用性の確保
SLA(Service Level Agreement:サービス品質保証契約)で保証される稼働率を確認します。企業の基幹システムでは99.9%以上、金融決済や医療情報システムなどのミッションクリティカルなシステムでは99.99%以上の可用性が求められます。
データ転送速度は業務効率に直結します。CDN(Content Delivery Network)との連携により、世界中どこからでも高速アクセスが可能なサービスを選定します。
レスポンス時間の保証値も重要です。特に大容量ファイルの頻繁なアップロード・ダウンロードを行う設計・開発部門では、スループット性能が生産性を左右します。
総保有コスト(TCO)の最適化
初期費用、月額費用、データ転送費用を含めた総コストで比較評価します。容量単価だけでなく、API呼び出し回数やアクセス頻度に応じた課金体系の違いを理解することが重要です。
ストレージクラス(頻繁アクセス、低頻度アクセス、アーカイブ)の使い分けにより、大幅にコストを削減できる場合があります。
隠れたコストとして、データ移行費用や既存システムとの連携開発費用も考慮します。ベンダーロックイン(特定ベンダーへの過度な依存)を避けるため、データのポータビリティも評価対象とします。
運用管理の効率化
監視・ログ管理機能の充実度が運用負荷を大きく左右します。使用量のリアルタイム監視、異常検知アラート、自動レポート生成により、運用担当者の負担を軽減できます。
API連携により既存の運用管理ツールとの統合が可能かも確認します。Infrastructure as Code(IaC:設定をコードで管理)への対応により、設定変更の自動化と標準化が実現できます。
バックアップ・リストア機能の自動化レベルも重要です。RPO(目標復旧時点)とRTO(目標復旧時間)の要件を満たせる機能を持つサービスを選定します。
クラウド運用の基本についてより詳しく知りたい方は、次の記事も参考にしてください。
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以下の担当者インタビューもあわせてご参照ください。
セキュリティ対策の実装で押さえるべき重要ポイント
クラウドストレージのセキュリティは、データ暗号化、アクセス制御、継続的な監査を基盤とした包括的な防御戦略により実現します。
暗号化戦略の設計
保存時暗号化では、顧客管理キー(CMK)の採用を推奨します。クラウドプロバイダー管理キーと比較して、より高度なセキュリティレベルを実現できます。
キー管理の複雑さを避けたい場合は、エンベロープ暗号化によりマスターキーとデータ暗号化キーを分離管理する方法があります。
転送時の暗号化では、TLS1.3以上のプロトコル使用を徹底します。証明書ピニング(信頼できる証明書を事前に固定する技術)により、中間者攻撃を防止できます。
アクセス制御の強化
セキュリティの基盤として、ゼロトラストモデル(すべてのアクセスを疑い検証する考え方)に基づく多層認証を実装します。ユーザー認証、デバイス認証、ネットワーク認証を組み合わせることで、内部脅威にも対応できます。
この認証システムとあわせて最小権限の原則を徹底し、各ユーザーに必要最小限のアクセス権限のみを付与し、定期的な権限レビューで不要な権限を削除していきます。
これらの静的な制御に加え、時間・場所・デバイスによる条件付きアクセス制御では、異常なアクセスパターンを自動検知する動的な防御機能が重要な役割を果たします。
監査・コンプライアンス体制
包括的なログ収集により、すべてのアクセス履歴を記録し、ログの改ざん防止のため書き込み専用ストレージへの自動転送を設定する必要があります。
SIEM(Security Information and Event Management:セキュリティ情報・イベント管理)システムとの連携により、リアルタイムでの脅威検知を実現できます。
定期的なペネトレーションテスト(疑似攻撃によるセキュリティ検査)では、セキュリティホールの早期発見と対策を継続的に実施していくことが重要です。
データ移行を成功させる段階的アプローチ
データ移行の成功率を高めるには、詳細な計画策定、段階的実行、継続的検証の3段階アプローチが有効です。
移行計画の策定
データ移行計画は現状分析から始めます。既存システムのデータ量、ファイル形式、アクセスパターンを詳細に調査し、移行対象データの優先順位を決定します。
現状把握とあわせて重要になるのがダウンタイム(システム停止時間)の最小化です。本番環境への影響を避けるため、段階的移行やライブマイグレーション手法(システム停止なしでのデータ移行)を検討します。
移行スケジュールは業務影響度を考慮して策定します。月末・期末の繁忙期を避け、システム利用の少ない時間帯を選択します。
段階的実行戦略
パイロット移行として重要度の低いデータから開始することで、移行手順の検証と課題の早期発見により本格移行のリスクを軽減できます。
並行運用期間を設定し、新旧システムの同時稼働で安全性を確保しつつ、データ整合性の継続的な確認と問題発生時の即座な切り戻し体制を整備していきます。
大容量データの移行では物理メディアによる転送サービスの活用も有効で、ネットワーク帯域の制約を回避して短期間での移行完了が可能になります。
検証・最適化プロセス
データ整合性の完全検証を実施し、ファイル数、データサイズ、チェックサムによる比較で移行漏れや破損を防止していきます。
性能ベンチマークにより移行後のシステム性能を定量評価し、想定性能を下回る場合は設定調整や構成変更による最適化が必要です。
ユーザー受け入れテストでは実際の業務フローでの動作確認を行い、操作性や応答速度に問題がないことを確認してから本格運用に移行することが重要です。
運用コスト削減を実現する最適化手法
クラウドストレージの運用コストは、ストレージクラスの最適化や重複排除などにより大幅なコスト削減が可能です。
ストレージクラスの効果的活用
データのアクセス頻度に応じたストレージクラスの選択が最も効果的なコスト削減手法です。
頻繁にアクセスするデータは標準ストレージ、月1回程度のアクセスは低頻度アクセスストレージ、年数回のバックアップデータはアーカイブストレージを使用します。
また、ライフサイクルポリシー(データの経過時間に応じた自動処理ルール)の自動化により、手動管理の負荷を削減しながら、継続的なコスト最適化を実現します。
データ重複排除・圧縮の活用
効率的なコスト削減には、重複データの自動検知・削除が有効です。特にバックアップデータや文書ファイルでは高い削減効果が期待できます。
さらにデータ圧縮機能を併用することで、転送量とストレージ使用量の両方を削減でき、テキストファイルでは70~80%の圧縮率を実現できる場合があります。
これらに加えてシンプロビジョニング(必要な分だけ容量を割り当てる技術)を活用すれば、実際に使用している容量のみを課金対象とし、無駄な容量確保コストを排除できます。
監視・分析による継続的改善
継続的なコスト最適化のためには、まず使用量の詳細分析でコスト発生要因を特定することが重要です。部門別、プロジェクト別の使用量レポートにより、適切なコスト配賦と意識向上を促進できます。
次に異常使用量の検知により、予期しないコスト増加を防止する仕組みを構築します。閾値設定によるアラート機能で、早期対応が可能になります。
そして、定期的なコストレビューを実施し、契約プランや設定の見直しを継続的に行うことで、使用パターンの変化に応じた最適化を実現できます。
自治体・公共機関での導入における考慮事項
自治体でのクラウドストレージ導入には、民間企業とは異なる特別な要件があり、法的規制への準拠と住民データの保護、限られた予算内での効率的な調達が同時に求められます。
情報セキュリティポリシーへの準拠
自治体でのクラウドストレージ導入では、まず総務省の「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」への準拠が必須要件となります。
このガイドラインで定められた三層の対策(①インターネット接続系、②LGWAN接続系、③マイナンバー利用事務系)では、それぞれでの適切な分離と保護措置が求められています。
さらに、政府が定めるセキュリティ基準に基づく適合性評価を実施することで、住民データをはじめとする重要な行政情報の安全な管理体制を確保できます。
参照:総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」
予算・調達プロセスの最適化
自治体の調達では、まず総合評価落札方式での調達において、価格だけでなく技術点の評価が重要になります。
また、債務負担行為の設定により、複数年契約によるコストメリットを享受でき、クラウドサービスの特性を生かした柔軟な契約形態の検討が可能になります。
さらに、将来の移行リスクを回避するため、ベンダーロックイン(特定ベンダーへの過度な依存)を防ぐ標準的なAPIやデータフォーマットへの対応を調達仕様に盛り込むことが重要です。
住民サービス向上への活用
クラウドストレージの導入により、災害時の業務継続性確保が実現でき、住民サービスの中断を防止できます。窓口業務システムのクラウド化により、本庁舎被災時でも他拠点からのサービス提供が可能になります。
また、平常時においてもテレワーク環境の整備により、職員の働き方改革と災害時の業務継続を両立できる体制を構築できます。
さらに、蓄積されたデータをデータ分析基盤として活用することで、住民ニーズの把握と政策立案の高度化を実現し、より効果的な行政サービスの提供につなげることができます。
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トラブル事例から学ぶリスク回避策
実際のトラブル事例を分析することで、事前のリスク回避策を講じることができます。
データ消失・破損への対策
最も頻発するトラブルである誤削除によるデータ消失には、バージョン管理機能の有効化が効果的です。過去の任意時点へのデータ復旧が可能になります。
これに加えて、多重バックアップ体制の構築により、単一障害点を排除することが重要です。異なる地域の複数データセンターへの自動レプリケーションを設定することで、より高度な保護を実現できます。
特に重要なデータについては削除保護機能により、意図しない削除を防止する設定も必要です。管理者権限であっても、特定の手順を踏まなければ削除できない仕組みが効果的です。
アクセス障害・性能劣化への対応
ネットワーク障害による一時的なアクセス不能に備えるには、マルチパス構成により冗長性を確保することが基本となります。
同時にCDN(コンテンツ配信ネットワーク)の活用により、特定地域でのアクセス集中による性能劣化を回避できます。エッジサーバー(ユーザーに近い場所に設置されたサーバー)でのキャッシュ機能により、応答速度の大幅な改善が期待できます。
業務への影響を最小限に抑えるには、帯域制限の設定も重要な対策です。大容量ファイルのアップロードが他の業務に影響することを防止し、安定したシステム運用を維持できます。
セキュリティインシデントへの備え
セキュリティ脅威の早期発見には、不正アクセス検知のため異常なアクセスパターンの監視を強化することが不可欠です。時間外アクセス、大量ダウンロード、未知デバイスからのアクセスを自動検知する仕組みを構築します。
万が一インシデントが発生した場合に備えて、インシデント対応手順の事前策定で被害の最小化と迅速な復旧を実現できます。関係者への連絡体制、証拠保全手順、復旧作業の分担を明確化しておくことが重要です。
これらの対策が実際に機能するよう、定期的な訓練を実施することで、実際のインシデント発生時の対応力を継続的に向上させることができます。
まとめ:クラウドストレージで実現する次世代IT基盤
クラウドストレージの導入は、単なるコスト削減ツールではなく、組織のデジタル変革を支える戦略的投資として位置づけることが重要です。
適切な選定基準に基づくサービス選択、段階的な移行アプローチ、継続的な最適化により、従来のIT基盤では実現できなかった柔軟性と効率性を獲得できます。
特に重要なのは、セキュリティ要件を満たしながら、業務効率向上と運用コスト削減を同時に実現することです。総保有コストの削減と運用負荷の大幅軽減により、IT部門はより戦略的な業務に集中できるようになります。
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