防災対策にもDX推進は有効な取り組みになる
災害が多発する日本において、つねに防災を意識した体制づくりや取り組み、非常時の取り決めなどをしておくことは重要です。市民の安全な生活を支える自治体においても、地域と関わる企業においても、その取り組みは想像以上に大きな役割を持っているといえるでしょう。
今回は防災対策にデジタル技術を活用することが有効であること、また、これからの社会や市民生活を守るためには、デジタル技術の活用や DX推進 が不可欠なことを紹介します。
防災DXとは。その重要性について
現在、自治体やさまざまな組織、企業においてデジタル技術を活用して業務のフローや組織文化を変革するための取り組みが行われています。そうした取り組みは、新たな価値を創出して競争力を高め、社会や人びとにより魅力的なサービスを提供する力を付けるためのもので、その一連の取り組みや考え方を含めたものがDXです。DXの推進にはデジタル技術の活用が不可欠です。そうした変革をめざした取り組みと防災とはどのように結びつくのでしょうか。防災DXとはどういった意味を持ち、その重要性がどのようなものなのかをみておきましょう。
防災DXとはデジタル技術を活用した防災体制を構築すること
防災というのは、災害が発生した場合を想定して、人びとが安全を確保できるような手立てを施しておくことです。自治体においては、市民の安全を確保すること。そして、生活を維持するために必要なライフラインが被害をうけたとしても、その復旧が迅速に行えるような仕組みを考え、構築しておくことです。またさまざまな組織や企業においては、そこに関わる人員・従業員の安全を確保し、また活動が継続できるように対策をとっておくことです。
こうした取り組みを進めるにあたって、デジタル技術を活用できます。たとえば、 防災意識の啓発に情報ネットワークを活用したり、事業継続対策として、基幹システムや必要情報をクラウドで保存し、社屋が被災しても別の場所で事業継続が可能な体制を構築しておいたりすることが、防災領域においてDXを推進することになります。
防災DXの重要性
2023年9月、日本は、関東大震災から100年を迎えました。記憶に新しい東日本大震災から12年がたちました。また気象庁の解説によると南海トラフ大地震が今後30年の間に発生する確率が70〜80%であるとされています。日本は4つのプレートに接しているため、地震発生リスクの高い国です。また周りを海に囲まれているため、大地震が発生した場合、多くの地域で津波の危険性が高いと考えられます。一方、険しい山が日本列島の中心に存在しているため、海に向かった平地に多くの都市が建設されているのも特徴です。つまり、都市部で地震や津波の被害が拡大する可能性の高い国であるといえるでしょう。
いいかえれば、国民一人ひとり、また国民を守る国・自治体・地域に関わりの深い企業や団体は、つねに防災の意識を持って体制づくりや対策を講じておく必要があるということになります。
このような災害のリスクを可能な限り抑えるために、デジタル技術を活用し、場所や時間に縛られない活動がすぐに行えるようにしておくことが重要です。また、簡単に誰もが正しい情報を入手できるようにネットワークを構築しておくことなど、防災DXは日本社会が安全に、安定して発展するためには、欠かせない取り組みだといえるでしょう。
災害対策で重要なことは「情報収集」「意思決定」「応急対応」 だといわれています。こうした行動が迅速に、確実に行える体制を構築することで、被害を最小限に抑えることが可能になります。そのためには、情報が正確かつ迅速に収集され、共有されることが必要なのです。この点からも、防災のデジタル活用、DXは必要な手段ともなるのです。
防災DXへの取り組み:デジタル庁・自治体・企業
では、防災DXへの取り組みはどのように進められているのでしょうか。また、どういった対応が必要とされているのでしょうか。それぞれの組織の動きを確認しておきましょう。
デジタル庁の取り組み
デジタル庁は「生活に密接に関連し、国と民間が協働して支えている準公共分野(防災)において、住民一人ひとりに合わせたサービスを提供できるよう、データを利活用するための環境整備を推進します。」としています。そして民間企業が開発している、防災分野の優れたアプリケーションが連携して使えるようなワンスオンリーを実現するために、システムを構築しようとしています。
- 防災DXサービスマップ
- デジタル庁のホームページに防災DXサービスマップが掲載されています。「平時」「切迫時」「応急対応」「復旧・復興」の4つの局面で使える有用なサービスを示したものです。それぞれのサービス分類から当該サービスのカタログが閲覧できるマップです。
自治体の取り組み
自治体の防災への取り組みは、直接、市民の生活を守り、被災した場合でも命を守り、いちはやく復旧へとつなげていくために重要なものです。多くの自治体は市民が活用しやすいアプリケーションなどを使った情報発信、情報共有システムを構築しています。
- 平常時からの積雪・水位等データ集積
- 防災につながる対策を講じるためには、平常時の測量は欠かせません。水位や積雪量など、地域の安全を確保するために必要なデータを自動で集積するシステムを構築しています。
- 千葉県:危機管理型水位計の設置をすすめ、河川の監視体制を強化
- 千葉県では、河川の監視体制を強化するために、堤防の決壊、漏水、川の水があふれる等の危険が予測される箇所において、危機管理型水位計の設置を進めています。水位情報はパソコンやスマートフォンからWebサイトで確認ができるようになっており、避難情報とあわせて、市民が迅速な避難に活用できるようなシステムが構築されています。
- 福井県:平時から観測データを集積し、災害時の対策や状況把握に活用
- 福井県では2022年8月の大雨で氾濫した河川に水位計がなかったことで、状況把握が遅れたことをうけ、浸水被害が想定されるすべての河川に水位計やカメラ等の整備を進めています。また、積雪の多い地域における被害を防ぐため、積雪深計の設置をして、積雪量を測定し、集積したデータを活用することで、いちはやい危険回避につなげています。
- 的確な情報収集と効果的な情報伝達。両方の連携を実現
- 長野県:即時性と網羅性を備えた情報収集を実現。防災情報システムと連携させ、効果的な情報伝達も可能に
- 長野県茅野市は蓼科高原、八ヶ岳、白樺湖といった自然環境がもたらす恵みを、観光資源として活用してきました。一方で、豊かな自然は河川の氾濫や土石流等の災害を招く要因ともなります。そこで、災害時の状況把握を迅速に行うための体制強化が課題でした。また、集積した情報を分析し、適切な対応、情報発信につなげることも課題でした。
- そこで、EYE-BOUSAIを導入し、 常に情報が見落としなく確認できる体制を構築 しました。あらゆる情報がEYE-BOUSAIに入ってくるため、すぐに報告すべき情報なのか、対策が完了している情報なのかといった 的確な状況把握が可能 となりました。また、情報が関係部署や機関と共有されるため、連絡をまたずに自らが動くべきものであるかどうかの判断も素早くできるようになりました。
▼ 本事例の詳細について
▼ EYE-BOUSAIについて
総合防災情報システム | EYE-BOUSAI | NTTデータ関西
企業の取り組み
- 防災コンソーシアムCORE:防災・減災に寄与するソリューションを創出・社会実装をめさず
- 民間でも防災DXの取り組みが進んでいます。代表的な動きとして「防災コンソーシアムCORE」があります。この組織は2022年に14企業で設立され、「国土強靱化基本計画」に沿った防災・減災の新たな取り組みを加速・推進するために活動しています。防災コンソーシアムCOREでは、災害を「自然現象(偶然)」ではなく「社会現象(必然)」と捉え、デジタル技術を含むあらゆる技術を用いて、防災・減災に寄与するソリューションを創出・社会実装するために取り組んでいます。
- NTTデータ関西・他:ドローン高精細映像のローカル5G伝送で自治体の災害初動対応の迅速化を支援
- 総務省が公募した「令和4年度課題解決型ローカル5G 等の実現に向けた開発実証」に株式会社NTTデータ関西(以下、NTTデータ関西)、愛媛県、西日本電信電話株式会社四国支店、株式会社ザイナス、SAPジャパン株式会社、シャープ株式会社、電気興業株式会社、NTTアドバンステクノロジ株式会社で参加し、NTTデータ関西が実証コンソーシアムの代表機関として取り組みました。
- その結果、「高精度映像伝送による災害時の迅速な情報共有・意思決定の実現」を目的とした提案が採択されました。
- この提案の内容は、愛媛県大洲市(肱川(ひじかわ)河川敷)において、 可搬型のローカル5G 環境を構築し、ドローンを活用した現場の高精細映像をリアルタイム伝送で確認するともに、取得データを防災・減災ダッシュボードに集約して3Dモデル解析・360°ビュー化により被害概況を高度に可視化する ことにより、自治体の災害時対応業務における各関係機関の状況認識の統一、および迅速かつ的確な意思決定の実現に向けて実証を行うものです。具体的には次の2点です。
- ① ローカル5Gを活用できる環境を構築する
- ② ドローンによる情報収集を実現する
- こうした実証を行い、成果を確認することで、 いままで自治体の災害対応における課題「現場の被害状況の迅速かつ確実な共有と状況認識の統一を図ること」「避難指示の発令判断や支援要請、被害現場への応急対策活動に関する意思決定の迅速化」といったものの解消をめざしました。
- 詳細は以下のサイトでご確認ください。
- 総務省「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に採択
- 事業継続計画を策定し、防災対策を進める
- 災害の被害を最低限に抑えるためには、被災時に予測されるリスクを考え、備えるための対策を打ち出すことが重要です。防災DXを進めている企業では、被害状況を確認するための情報収集、通信手段の整備、従業員の安否確認手段の整備など、事業を継続することと、従業員を守ることを含めた防災体制を構築しています。
- 株式会社鹿児島放送: 新社屋建設時に事業継続計画対策を強化。PBX(電話交換機)をクラウド化することで情報連携を改善
- 鹿児島放送では、新社屋を建設するにあたり、PBXが老朽化していた問題も同時に解決を図りました。社内電話環境を刷新することで、情報伝達の円滑化を実現することが目的でした。
- まず、事業継続計画の観点から電話環境はクラウド型を選択しました。この選択は運用負荷やコスト削減にも効果を期待しての選択でした。具体的に選択したのはNTTコミュニケーションズのクラウド型PBXサービス「Arcstar Smart PBX」です。
- このサービスは、スマートフォンを内線端末として利用することができるので、利便性があります。このサービスを導入することで、従業員は内線番号を持つようになりました。その結果、本社、支社間の連絡、支社どうしのコミュニケーション、さらには、現場で業務にあたる報道記者からの連絡などが円滑になりました。
- こうした改変は、従業員と直接つながる連絡網の強化ともなり、非常時の情報共有の迅速化につながっているといえるでしょう。
- インフラを確保するための災害時を想定した環境整備
- 災害時に大きな影響をうけるのがインフラです。なかでも通信手段を確保することは情報の共有、状況の把握といった観点からも重要です。
- NTTドコモ:通信手段確保のため基地局の設置を進める
- NTTドコモは広域災害や広域停電が起こったときには、広範囲で携帯電話の基地局が利用できなくなることを想定して、「大ゾーン基地局」「中ゾーン基地局」の設置拡大を行っています。
- 「大ゾーン基地局」はおもに人口密集地の重要通信を確保することを目的として設置されています。耐震性の高いビル等への設置を行い、非常用発電装置を用いた無停電化と伝送路の2ルート化による信頼性の確保を実現しています。
- 「中ゾーン基地局」は通常の基地局の基盤を強化した基地局です。平時は通常の基地局として運用し、災害時に周辺の基地局が活用できなくなった場合は、アンテナ角度を変更することで広いエリアをカバーすることが可能となります。
- 今後も、このように多様な災害への備えを充実させるため、大ゾーン・中ゾーンの基地局は整備を拡大していく予定です。
- 防災チャットボットの活用
- 自治体においては、被災時に正確な被害情報を把握することが重要です。市民から情報投稿ができたり、救助要請が発信できたりする機能のあるアプリケーションを使い、避難情報、被災情報の共有を図っています。
- 迅速に正確な情報を集めるためのツールとして防災チャットボットの活用が進められています。
- 滋賀県米原市:1万4,000世帯を網羅する防災情報伝達システムを構築
- 米原市では、スマートフォンやメールなどと連携ができる仕組みを構築して、いつ・どこにいても個人が所有している端末を使って情報が共有できるようにしています。使用しているのはNTTデータ関西が各地域のグループ会社と連携している減災コミュニケーションシステムです。このシステムはNTTドコモの携帯電話通信網を活用して、スマートフォンアプリや携帯電話へのメールで防災情報を送ることができます。このシステムは防災危機管理課からの配信だけではなく、有事の際には避難状況などを迅速に知る手立てになっています。
▼ 本事例の詳細について
滋賀県米原市役所様 | 導入事例 | 株式会社NTTデータ関西
改めて防災DXを推進するメリット
防災は、災害が発生し、被災した場合においても、人びとの命を守り、平常に近い形へと社会や生活を復旧することを目的とした取り組みです。そのためには、 現状の把握、情報の共有、ライフラインの確保・復旧など、具体的な対応が迅速に行われることが必要 になります。こうした対策、対応において、デジタル技術を活用し、体制を整備するDXの推進はどのようなメリットがあるのでしょうか。改めて確認しておきましょう。
- 災害の発生、リスク、避難情報の迅速な提供ができる
- 災害が発生する恐れがある、あるいは、発生したこと、そして考えられるリスクなどを いちはやく情報提供することで、迅速な避難が必要なこと、あるいは平常から備えが必要なことに意識を向ける ことになります。そして、最悪の事態を想定して、自らの命を守るための対策を講じるキッカケをつくります。
- こうした動きは、デジタルデータとして、たとえば、 ネットを活用したSNSで発信され、広く人びとがその情報を得る環境が整えば、防災への意識が高まる ことが予想されます。
- また、被災した場合、避難情報が確実に届けられれば、混乱を避け、より安全に避難行動がとれる可能性が高まります。
- 被害状況の把握と支援ができる
- 被害をうけた住民や地域への支援を迅速に行うためには、正確に状況を把握し、支援内容を決定する必要があります。そのためには、正確な情報を収集しなくてはなりません。たとえば 災害の影響をうけない人工衛星を経由したり、人が近寄れない現地にドローンを飛ばして、詳細で高精細な映像をリアルタイムで確認したりしながら、状況を把握することが重要 です。
- そのうえで、各自治体が個別に発行していた罹災証明書も、全国瞬時警報システム「Jアラート」が確実に作動すれば、必要な人に迅速に統一したものが発行できるようになります。また、手続きも均一化できるため、地域によって支援が届かない、うけられない状況を解消できると期待されています。
- 共助を促す連携が築ける
- 災害が発生した場合は、国や自治体が救援活動を行わなければなりません。一方で、被災現場においては、一刻も早い生活物資の確保と、安全な避難場所の確保が必要となります。 そうした場合は、被害をうけなかった旅館、ホテル、民泊といった施設の活用が有効です。シェアリングエコノミー(所有しているモノや場所を提供する)が、活用できるようにインターネット上のプラットフォームを構築すれば、より広く、共助を促す連携が築きやすくなるでしょう。
- 事業継続計画(BCP)が充実する
- 各企業や組織において、事業継続計画を策定し、実効性を高めていけば、従業員の安否確認ができるほか、事業の継続、再開が確実に行えるようになります。
- また、こうした各企業や組織における取り組みは、たとえば建設業界においては、住民生活を復旧させるためのライフラインの復興といった社会貢献にもつながります。
- 防災DXの事例は次のサイトからもご覧いただけます。
- 都道府県も市町村も「命を守る活動に専念」を―NTTデータ関西が総合防災情報システム「EYE-BOUSAI」で出した答え
- また、DX推進については、次のサイトもご覧ください。
- DXを単なるIT化で終わらせないために。失敗例から成功のカギを探る
- DX推進・成功事例から実施のヒントを探る~国内・海外成功事例22選~
- DXで業務効率化も実現!成功20事例を紹介
まとめ: 防災にデジタル技術の活用は必須。防災DXでレジリエントな未来をつくる
いま日本において企業や自治体、さまざまな組織で取り組みが加速しているDX。この考え方を防災面でも活用し、デジタル技術を活用することがとても有用な取り組みです。
社会全体の総合力として危機や災害に対応する力を高めていくためには、企業、自治体、組織を横断した状況認識の統一や連携が必要 になります。
そうした体制を構築するには、情報の共有は不可欠です。いいかえれば、いつでも、どこでもつながる手立てが必要だということです。これはデジタル技術の活用以外にないといってもいいでしょう。
自社の事業継続のみならず、業界、社会全体の総合力を高めるために、防災DXへの取り組みの強化をご検討ください。