デジタル田園都市国家構想とは?目的やポイント・4つの事例をわかりやすく解説
近年、地方では人口減少や高齢化、産業の衰退など、さまざまな課題に直面しています。こうした地方の課題解決に向けて、日本政府が打ち出したのがデジタル田園都市国家構想です。この構想は、デジタル技術を駆使して地方の活力を取り戻し、誰もが快適かつ心豊かに暮らせる状態を目指しています。
本記事では、デジタル田園都市国家構想の目的や国の3つの取り組み方針、交付金についてわかりやすく基本情報を解説します。また、先行事例についても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
デジタル田園都市国家構想とは?
デジタル田園都市国家構想とは、 デジタル技術を活用して地方の社会課題を解決し、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指す国家的な取り組み です。
2021年に政府が発表した新しい国家戦略で、2023年には改訂版が公表されました。
都市部と地方部の格差を縮小し、誰もが住みやすく活力ある社会の実現を目指す壮大な構想と言えるでしょう。
デジタル田園都市国家構想の目的
デジタル田園都市国家構想の目的について見ていきます。
地方の社会課題解決と魅力向上
デジタル田園都市国家構想は、地方が直面する人口減少、少子高齢化、過疎化・東京一極集中、地域産業の空洞化などの社会課題に対して、デジタル技術を活用して解決を図ることを目的としています。同時に、地域の個性を生かしながら魅力を高め、地方活性化を加速させます。
誰もが便利で快適に暮らせる社会の実現
デジタル実装を通じて、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指します。地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさを提供することで、住む場所にかかわらず質の高い生活を送れる環境を整備します。
心豊かな暮らしの実現
デジタル田園都市国家構想は、誰一人取り残されることなく、全ての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしの実現を目的としています。デジタルデバイド(情報格差)の解消や、利用者視点でのサービスデザインなどを通じて、年齢、性別、障害の有無、経済的背景などにかかわらず、全ての人が恩恵を受けられる包摂的な社会を目指します。
デジタル田園都市国家構想に向けた国の3つの取り組み方針
国は、デジタル田園都市国家構想の実現に向けて、以下の取り組み方針を掲げています。
- 1.デジタル基盤の整備
- 2.デジタル人材の育成・確保
- 3.誰一人取り残されないための取り組み
各方針について、具体的な取り組み内容を紹介します。
1.デジタル基盤の整備
デジタルインフラやマイナンバーカードの普及を促進し、データ連携基盤を構築します。また、ICTを活用して、持続可能で利便性の高い公共交通ネットワークを整備するとともに、エネルギーインフラのデジタル化を進めます。
2.デジタル人材の育成・確保
デジタル人材育成プラットフォームの構築、職業訓練のデジタル分野の重点化に取り組んでいます。高等教育機関等におけるデジタル人材の育成を進め、地域への還流促進にも注力すると発表しています。
3.誰一人取り残されないための取り組み
デジタル推進委員を展開し、デジタル共生社会の実現を目指します。
経済的事情等によるデジタルデバイドの是正に取り組み、利用者視点でのサービスデザイン体制を確立します。「誰一人取り残されない」社会の実現に資する活動の周知・横展開を図ります。
デジタル田園都市国家構想の4つの事例
1.愛知県西尾市|LINE連携で電子申請の利便性を向上
既存の電子申請・届出システムを利用したオンライン申請では、アカウント登録や処理状況の確認の不便さが課題になっており、西尾市でも、市民の安全性確保や利便性向上のために、使いやすいオンライン申請サービスの提供が求められていました。
そこで、西尾市は、既存の電子申請・届出システムにLINE連携機能を追加することで、市民にとって使いやすい電子申請サービスを提供。
LINE公式アカウントから直接オンライン申請にアクセスでき、アカウントの自動登録や処理状況のLINE通知が可能 になりました。
取り組みの成果として、 西尾市のLINE公式アカウントの友達登録者数は10万人を超えた といいます。また、愛知県の他市町村への横展開がしやすいという点も利点でした。
▼事例の詳細はこちらから
日本初!e-TUMO APPLYとLINEを連携申請から決済、受け取りまでの一気通貫システムで市民の利便性と職員の業務効率化を向上させる
事例で活用されている電子申請サービスは、NTTデータ関西が提供する「e-TUMO APPLY」です。29都道府県約920団体で導入されています(2023年時点)。
▼e-TUMO APPLYの詳細について
2.宮城県仙台市|スマートシティ実現に向けた公式ポータルアプリを開発
宮城県仙台市では、多様なサービスや情報が行き交うなか、市民が必要な情報にアクセスしづらくなっている状況に課題感を持っていました。
そこで、市民の利便性向上とスマートシティの実現を目指し、仙台市公式ポータルアプリ 「SENDAIポータル」 の運用を開始しました。SENDAIポータルは、市民一人ひとりに合わせた気象情報や災害情報を通知でお知らせできるサービスです。
仙台市は、デジタル田園都市国家構想の一環として、SENDAIポータルを活用しています。このアプリを通じて、日常と災害時の非日常をシームレスにつなぎ、安心でにぎわいのあるまちづくりを目指しています。
SENDAIポータルは、 NTTデータ関西が提供するスマートシティポータルアプリ「EYE-Portal」をベースに開発された ものです。防災情報やスマートシティに関するサービスに加え、地域の企業や団体が提供する情報やサービスを統合できます。 AIレコメンド機能により、利用者一人ひとりの興味関心に合わせた情報やサービスを提供できるの が特徴です。
▼EYE-Portalの詳細について
3.鳥取県米子市|生活者一人ひとりに合わせた手続きを自動で案内
子育て中の世帯では、引っ越しや出生等のライフイベントに伴い、住民異動や戸籍届出と共に、医療費助成や児童手当等の複数の手続きが必要になるケースが多いです。そのため、どの手続きをすべきか分かりにくく、案内漏れが発生することもありました。また、各課の窓口を回って申請書を何枚も手書きする負担もありました。
こういった課題を解決しつつ、 「迷わせない、何度も聞かない、書かせない」を目指して、「スマート窓口システム」を構築 。システムの構築には、住基情報、税情報、児童手当や国民健康保険の資格情報等のデータを活用し、 申請者のライフイベントや世帯構成に合わせた手続きを案内できるよう 作成しています。
その結果、令和3年10月以降では1日平均10件の利用があり、利用者アンケートでは8割が満足と回答しています。職員のスキルに左右されずに適切な手続きを提示できるようになったのも大きな成果と言えるでしょう。
4.新潟県|電子ホワイトボードで医療情報を可視化・共有
新型コロナウイルス拡大の影響で、新潟県では医療業務が逼迫(ひっぱく) しており、県庁と県内の保健所の情報共有体制の構築が急務の状態でした。
そこで、 産学官が一体となり、電子ホワイトボードを活用して最新情報の可視化とリアルタイム共有の実現 に向けて取り組みを進めました。これにより、迅速なトリアージと医療調整業務の効率化を図ったのです。
その結果、感染者が急増する状況でも、県庁と保健所が密に連携し迅速に対応できる体制が構築されました。
導入前の第4波では深夜までかかっていた入院調整が、導入後の第5波、6波では19時過ぎに完了できるようになっています。また、関係者間の連絡が滞ることがなくなり、保健所の業務負荷が大幅に改善するという成果が出ています。
感染症の流行への備えとしてだけでなく、通常時の医療業務を効率化するうえでも電子ホワイトボードは有効に活用できるのではないでしょうか。
デジタル田園都市国家構想を実現させるためのポイント
デジタル田園都市国家構想を実現させるためには、どんなことを意識しながら取り組みを進めればよいでしょうか。
デジタル技術をうまく活用しながら、地域の活性化と地域課題を解決するためのポイントについてひとつずつ解説します。
首長のリーダーシップとビジョンを明確化する
デジタル田園都市国家構想の実現に向けて地域課題を解決していくには、首長のリーダーシップが不可欠です。首長が取り組みの重要性を理解し、明確なビジョンを示すことで、庁内全体で課題解決に取り組む意識が醸成されます。また、首長の強いコミットメントは、予算確保や庁内調整においても大きな推進力となります。
部署間で連携体制を構築する
地域課題の解決を目指すのであれば、一部の部署だけでは実現できません。さまざまな部署が連携し、横断的な推進体制を構築することが重要です。
部署間の認識の齟齬(そご)を防ぎ、円滑な連携を図るために、定期的な会議や研修等を通じて、デジタル田園都市構想の実現に向けて取り組みを進める目的や、具体的な内容を全庁的に共有する必要があります。
現場目線に立ったサービスを設計する
地域を活性化させるには、住民や職員など、エンドユーザーの利便性向上を目指すことが重要です。サービス設計においては、現場の声に耳を傾け、ユーザー目線に立つよう心がけましょう。利用者の満足度を高めるためには、システムの機能面だけでなく、使いやすさや分かりやすさなど、ユーザー体験(UX)を重視した設計が求められます。
DX人材を育成する
デジタル技術をうまく活用するには、デジタル技術に精通したDX人材が不可欠です。組織内でのデジタル人材の育成に加え、外部人材の登用も検討するとよいでしょう。民間企業での経験者や専門家の知見を取り入れることで、新たな発想や先進的な手法を導入できます。また、研修やOJT等を通じて、職員のデジタルリテラシーを向上させることも重要です。
DX人材の育成方法や重要性については、以下の記事が参考になるでしょう。
先進事例を参考にして取り入れる
デジタル田園都市国家構想の取り組みのなかで、先進的な成功事例が数多く生まれています。これらの事例を参考にすることで、プロジェクト推進に向けたアイデアや手法を学べます。先進事例を参考にしつつ、自治体の特性や課題に合わせてカスタマイズすれば、効果的かつ効率的に取り組みを進められるでしょう。
自治体の成功事例については、以下の記事で詳しく紹介しています。
【自治体DX】6つの先進事例から学ぶDXを成功させるポイント!
デジタル田園都市国家構想交付金の概要
デジタル田園都市国家構想交付金は、デジタル実装に必要な経費を国が支援する交付金です。デジタル技術を活用し、地方の活性化や行政・公的サービスの高度化・効率化を推進することが目的です。
令和6年度当初予算では、1,000億円が計上されています。
交付金の種類は4つのタイプに分かれています。
- TYPE1: 優良モデル導入支援型(優良モデル・サービスを活用した実装の取り組み)
- TYPE2: データ連携基盤活用型(データ連携基盤を活用した、複数のサービスの実装を伴う取り組み)
- TYPE3: デジタル社会変革型(新規性の高いマイナンバーカードの用途開拓 / AIを高度活用した準公共サービスの創出のいずれかを満たし、総合評価が優れているものに関する取り組み)
- TYPES: デジタル行財政改革先行挑戦型(「デジタル行財政改革」の基本的考え方に合致し、国や地方の統一的・標準的なデジタル基盤への横展開につながる見込みのある先行モデル的な取り組み)
デジタル田園都市国家構想交付金により、地方公共団体の意欲的な取り組みを支援し、デジタル田園都市国家構想の実現を目指します。ぜひこういった交付金もうまく活用しながら、取り組みを進めましょう。
まとめ:地方の持続的な発展を支えるデジタル田園都市国家構想
デジタル田園都市国家構想は、デジタルの力で地方の課題解決と価値創造を図る、日本の新しい成長戦略です。地方の社会課題解決と魅力向上や心豊かな暮らしの実現など、多岐にわたる効果が期待されています。
自治体は、国の支援を最大限に活用しつつ、地域の特性を生かしたデジタル田園都市の実現に向けて、戦略的に取り組む必要があります。住民や企業との協働や部署間での連携など、オープンな姿勢で挑戦を重ねることが成功の鍵を握るでしょう。
NTTデータ関西でも、 自治体のデジタル田園都市やDXの実現につながる行政総合サービスモール「e-TUMO」を提供 しています。
e-TUMOは、住民・事業者の申請から職員の受付までのフロント業務を効率化できるクラウドサービスです。以下の4つのサービスを提供しています。
4. 個人番号交付予約・管理サービス「e-TUMO MYNUM」
激しく変化するIT環境や技術革新にも対応できるよう、常に進化し続けているシステムです。住民と行政をつなぐきっかけ作りをサポートいたします。
▼e-TUMOの詳細について
また、本記事の事例でも紹介いたしましたスマートシティアプリ「EYE-Portal」は、さまざまなアプリを連携し、生活者一人ひとりに合わせた情報を発信できるアプリです。
概要や活用方法については以下をご覧ください。
▼EYE-Portalの詳細について